日本独自の「おもてなし文化」タクシーの自動ドア! かつてのセダンタイプでは「開閉練習」をするほど熟練の技が必要だった
日本に初めてきた外国人が必ず驚くタクシーの自動ドア
いまはあまり話題にならなくなったが、過去には日本を訪れた外国人が驚くことのひとつにタクシーの「自動ドア」があった。 【写真】誰もが1度は見たことある! スーパーサインってなに? そもそも日本で運転席の隣を「助手席」と呼ぶのは、その昔、タクシーの自動ドアが普及する前は、まさにタクシーの助手席に運転士の助手が座り、お客が乗降するたびにその助手がドアの開閉を行っていたからだ。 我が国初の純国産乗用車として初代トヨタ(トヨペット)・クラウンがデビューしたのは1955年のこと。クラウンが開発された背景のひとつには、日本のタクシーやハイヤーを、トラックシャシーにセダンボディを架装した「なんちゃってセダン」ではなく、純国産乗用車にしたいというものがあったと聞いている。 その初代クラウンが「観音開き」とも呼ばれる、後席ドアに逆ヒンジタイプを採用したのも、助手が後席ドアの開閉を素早くできることを考慮したからとも聞いている。 その後、1964年の東京オリンピックのタイミングで、タクシーに自動ドアが普及し始めたとされている。 トヨタ・クラウンや日産セドリックなどのセダンタイプでは、タクシーの進行方向左側、つまり助手席後ろ側のドアが自動で開閉可能となっていた。自動といっても一般的には運転席近くから左側後席ドアまでを鉄の棒でつなぎ、運転士が任意操作でドアを開閉する「手動式自動ドア」が多く、セダンタイプの個人タクシーあたりでは「真空式」と呼ばれるスイッチで運転士が操作するものもあった。 手動式自動ドアの操作レバーは、運転席ドアと運転席の間のスペースに設けられるのが一般的なのだが、車種によってそのスペースに余裕がない場合は、センターコンソールボックスと運転席の間にレバーが設けられることもあった。
手動式自動ドアの操作には熟練の技が必要だった
ドア操作はかなりコツがいることもあり、新人運転士には念入りに開閉研修を行っていたとも聞いたことがある。とくに風の強い日は、風にドアが煽られて一気にガバッと開いてしまうこともあるので(強風のときは閉めるのも大変だった)力が必要になってくるし、十分に幅寄せしないで停車してドアを開けて、後ろから来た自転車やオートバイがそのまま突っ込んでくるといった、ドア開閉時の事故防止にも十分な配慮が必要であった。 そのため、道路に対し左斜めに停めて、二輪車がすり抜けられないように停車するようにとも教えてもらっていたそうだ。 ドアの開口面積やシート形状など、タクシー車両の要件が緩和されるとミニバンタクシーが目立ってきた。これは乗用ミニバンをそのまま使うことになる。オートスライドドアが標準装備されていれば、セダンタクシーのように自動ドア装置を装着する作業及びコストが必要ないこともミニバンタクシーの普及が加速した一因とされている。 現状で唯一の営業用専用車といえるトヨタJPNタクシーの助手席側後部ドアは、オートスライドドア(運転席後ろはヒンジタイプドアで自動ではない)を採用している。 ヒンジタイプ自動ドアのころのような「ドア開閉事故」リスクは減ったものの、運転士によってはお客を降ろすために完全停車する直前からスイッチ操作でドアを開け始めたり、逆にお客を乗せたあと完全にドアが閉まる前に見切り発車している光景を街なかで見かける。オートスライドドアだからといって、完全にリスクが取り払われたというわけではないようだ。 先日、トヨタJPNタクシーを運転する運転士さんに話を聞くと、「少し前に車検に入れるとのことで、JPNタクシーの代わりにクラウン・コンフォートのタクシーを運転することがあったのですが、久しぶりに手動操作の自動ドアだったので、はじめはその存在自体忘れかけていましたし、開閉操作の勘を戻すのに苦労しました」と話してくれた。 筆者は、海外でタクシーを利用したとき、ボーっとしていると降車してからドアを閉めるのをしばらく忘れていたことも何回かあった(不思議とドアが開くのを待ったことはない)。 日本にてセダンタイプタクシーがほとんどのころには、乗り込んできた乗客が運転士がドアを閉めようとした瞬間にわざと足を外に出して挟み込ませたりして治療代を要求するといってこともあったし、運転士の注意喚起などの配慮が足りずに着物やドレスの裾をドアに挟んだまま走行したりすることもあったと聞いている。 便利な自動ドアだがトラブルの温床にもなりやすいので、日本に来て便利だなぁと感じる外国人が多くとも、諸外国では自己責任でドア開閉を行ってもらうようになっているのだと感じている。 インバウンド(訪日外国人観光客)に加えて日本国内に居住する外国人も急速に増えてきている。今後の行方次第では、日本のタクシーも自動ドア廃止ということになるかもしれない。
小林敦志