イギリス芸能界でも「性加害」の過去――同様の被害を受けた男性が日本の被害者に“伝えたいこと”
■“40年間、自分を責めてきた” …疑惑が明らかになり「私は解放された」
――こうした被害を受けて、どう感じましたか? 被害を受けた直後は何が起こったのかよく理解できませんでした。9歳の少年だったので、何もわからなかったのです。 それから少し大きくなって、11歳頃からは何が起こったのか理解できるようになりました。その頃はただただ恐ろしくて、胸が締め付けられるようでした。そしてそれから40年間ほど、自分を責めてきました。そのせいで少年時代が台無しになったとまでは言えないものの、この被害のことが常に頭の中にありました。 ただ、今はこの件について以前より気持ちが楽になりました。皆がサビル氏が起こした事件の恐ろしさを知って、理解したからです。でも、それでもまだつらい気持ちを抱え続けています。このインタビューに答えた後、数日間は苦しみが続くと思います。初めて取材に答えてから9年たちましたが、その間、そうした状況に慣れてきたつもりです。 ――被害にあったことを、家族も含めて誰かに伝えるのは難しかったですか? 最初は誰にも言えませんでした。サビル氏が死んだ後、疑惑が明らかになった時、他の人たちも苦しんでいることが分かって私は解放されました。そして少しずつ、日に日にそれぞれの被害者のケースが明らかになって、私の気分は良くなっていきました。当時は女性の被害者ばかりでしたが、もう1人、男性の被害者がいるという話が出てきたんです。妻に私の被害を話したのは、その時でした。妻はショックを受けていて、話してから10分もたたないうちに警察から電話がかかってきました。妻が警察に通報したんです。 両親に話すのはもっとつらかったです。今でもその時のことが頭から離れません。
■自身の経験を語ることで「人々の助けに」
――ご自身の経験をメディアに話そうと思われたのは、なぜですか? 他にも男性の被害者がいると知ったからです。“ここにも男性の被害者がいる”とマスコミに話したかったのです。それで当時、購読していた新聞社にそのことを伝えました。新聞記事が出ると、今度は他の新聞社やテレビ局もこぞって取り上げてくれるようになりました。 私が自分の経験を話せば、BBCがこのような事態を招いたことに対して釘を刺すことになりますし、少年でも性加害を受けるという話が広まれば広まるほど、人々の助けになると思ったからです。 ――サビル氏の一連の性加害に関して、番組を制作していたBBCの責任についてはどう感じていますか? 私が被害に遭った当時の1970年代、BBC内にはこのことを知っている人がいたはずで、その人たちには今でも憎しみを持っています。このことが明らかになった時には加害者が死んでいたため、BBCにできることは被害者に補償金を支払うことだけでした。私はそのやり方が好きではなかったので、私に対するお金はチャリティーや他の人たちに寄付しました。 ただ、少なくともBBCはこの事件について気づき、責任を認めてくれました。被害者数人とともに当時の局長に会い、彼は私たちの話に耳を傾け、BBCを代表して謝罪してくれました。 ――BBCがサビル氏に関するドラマを今年の秋にも放送する予定です。そのことについてはどう思いますか? 最初は少し疑っていました。ドキュメンタリーではなく、俳優が演じるドラマだったからです。最初は少し懐疑的でしたが、制作陣に対して私の経験について話をしたところ、“ドラマはBBCを擁護するために作られるのではない”ということで、私は安心しました。 撮影された映像を見ましたが、私の経験がそのまま再現されていて、当時の記憶がよみがえるほどに怖く、とてもリアルでした。彼らは本当に素晴らしい作品を作ったと言わざるを得ません。サビル役を演じた俳優の演技も素晴らしかったですし、9年前に私の経験が報じられたことを知らない人にも、この事件を知ってもらうきっかけになると思います。 ――ジミー・サビル氏がまだ生きていたら、何を伝えたいですか? 「なぜ、なぜ私だったのか?」「まだ9歳の少年だった私になぜ?」と問いたいです。私が死ぬまで、この怒りは消えないでしょう。