いがみの権太に「私の型」で命込め 片岡仁左衛門が大阪松竹座で義経千本桜
今夏も大阪・道頓堀の松竹座で関西の歌舞伎再興に大きな役割を果たした「関西・歌舞伎を愛する会・七月大歌舞伎」が7月3~26日に行われる。中心となるのは人間国宝、片岡仁左衛門。「この公演は関西にとっても、私にとっても特別大切なもの」と語り、当たり役「義経千本桜」のいがみの権太を勤める。「幕が閉まったとき、お客さまにどれだけ泣いていただけるかです」。舞台に命を込める。 仁左衛門が初めて権太を演じたのは平成14年。以来、何度も演じ重ね、そのたびに戯曲を見直し、役を深めてきた。 吉野に住む権太は悪さばかりするので父親の弥左衛門から勘当の身。今日も金の無心に実家に現れ、老母から金をだまし取っていた。実は、弥左衛門は平家の公達、平維盛を下男の弥助として鎌倉方からひそかにかくまっている。それを知った権太はほうびの金欲しさに、維盛の首とその妻子を鎌倉方に引き渡そうとする。 仁左衛門の権太は、「上方の型(演出)」をベースに、関西の言葉遣いから身のこなしまで、やぼで泥臭く、愛嬌のある小悪党ともいうべき人物を造形。老母に甘えるくだりなど原作の人形浄瑠璃文楽を研究したそうだ。 また、自分の妻子を身代わりに鎌倉方へ引き渡す際の別れの場面や、父親に刺されるタイミングなど、随所に自身の工夫が見える。もはや「上方というより、私の型になっている」と言うが、真摯にこうも語る。「演じるたびにいろいろ考え直している。これでよし、というものは見つからない。今後もまだ工夫することが出てくると思うし、常に上を向く姿勢は忘れたくない」 もう一つ、仁左衛門が本作で特に大切にしていることがある。それは「すし屋」の前に必ず、権太と家族との情愛を描いた「木の実」と「小金吾討死」をつけて上演することだ。 「この場面があるからこそ親子の別れ、夫婦の別れが一層身に染みるものになる」と言い、「大切なのは心。いくら演技がうまくても心が伝わらなくては意味がない。技法ばかりが先行してはいけないと思っています」と明かした。 今年は「関西・歌舞伎を愛する会」が、前身の「関西で歌舞伎を育てる会」の第1回公演から45周年。毎年7月に行われている「七月大歌舞伎」も大阪の町にすっかり定着し、関西で歌舞伎ファンの裾野が広がり、船乗り込みとともに夏の風物詩となった。