相続した空き家を売却…相続時と売却時の税金ダブルパンチにご用心!税軽減の特例はあるのか【相続専門税理士が解説】
相続した不動産を売却する場合、相続時の相続税と売却時の所得税の支払いで「税金のダブルパンチ」を受けてしまいます。そのため、支払った相続税を譲渡所得から差し引き、所得税の負担を軽くする特例が用意されています。これを適用すれば所得税の節税が可能です。ここでは「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」について見ていきましょう。相続専門税理士の岸田康雄氏がやさしく解説していきます。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
空き家を売ったときの特例とは?
相続した空き家を売却したときに所得税が抑えられる特例が2つあります。1つは「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、もう1つが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。 ここでは「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を中心に見ていきましょう。 「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、空き家となった被相続人の自宅を相続した相続人が、耐震基準を満たす修繕をして家屋と敷地を売却したか、あるいは取り壊したあとで敷地だけを売却した場合、譲渡所得から3,000万円が控除されるというものです。つまり、所得税が安くなる、という特例です。 一見メリットしかないように思える特例ですが、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(=取得費加算の特例)」とは併用ができない、という点には注意が必要です。両方の特例の要件に当てはまる場合は、有利な方を選ぶようにしましょう。
「譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」の適用要件
この特例を適用するための家屋の要件ですが、次の6つすべてに当てはまる必要があります。 (1)相続開始の直前に被相続人が住んでいた住居であること (2)1981年(昭和56年5月31日)以前に建築されたものであること (3)耐震基準を満たしていること (4)区分所有建物登記がされている建物でないこと (5)相続開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと (6)相続時から売却時までずっと空き家であったこと もし耐震基準を満たしていなかった場合も、基準を満たすように修繕すれば、要件を満たしたとして、条件の適用を受けることができます。 また、この特例の正式名称「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」にもある通り、「空き家である」ということが要件に含まれます。そのため、取得後に事業用に使う・賃貸する・相続人が住む、といったことがあれば、要件から外れてしまいます。 家屋を取壊した場合の要件としては、「相続時から取壊し時までにずっと空き家であったこと」「取壊したあとの敷地は、相続時から売却時までに賃貸されていなかったこと」が求められます。 家屋と敷地の要件以外にも、満たすべき要件があります。 まず、期限に関しては「売却日が相続時から3年を経過する年の12月31日まで」である必要があります。 また、金額については「売った金額が家屋と敷地の合計で1億円以下」である必要があります。 その他にも「売却先は、親子や夫婦といった特別の関係がない人」である必要があります。特別な関係には、親子や夫婦のほかに、内縁関係にある人や、特殊な関係のある法人なども含まれます。 そう聞くと、敷地を分割して1億円を超えないようにすればいい、と思われるかもしれませんが、敷地を分割して売る場合、一部を売った金額が1億円以下でも、全体を合計した金額が1億円を超える場合には、この特例を適用することができません。 空き家や敷地を2人の相続人で相続し、共有となった場合も同様です。1人の相続人が持分を6,000万円で売り、もう1人の相続人も持分を6,000万円で売った場合、それぞれ売った金額が1億円以下になるため、特例を適用できるように見えますが、それぞれの売却価格すべてを合計した金額が1億円を超えることから、特例の適用ができなくなってしまうのです。