女子レスリング川井梨紗子の東京五輪代表内定で伊調馨の五輪出場可能性は完全消滅したのか?
女子レスリング57kg級の川井梨紗子(24、ジャパンビバレッジ)が世界選手権(カザフスタン)で決勝進出を決めて銀メダル以上獲得が確定したことで同階級の東京五輪代表に内定した。これで伊調馨(35、ALSOK)が目指した五輪五連覇は、少なくとも57kg級では消滅した。 準決勝まで無失点。準決勝の相手、アデクロイエ(ナイジェリア)は、手足が長く、独特のしなやかさを持つ初めて手を合わせるタイプだった。第1ピリオド中盤、この日初めて失点した。先制点を許したものの「あれを1点で抑えられたから、まだ大丈夫だな」と川井は冷静だった。第2ピリオドでは両足タックルに攻撃の主体を切り替え、6-1で決勝進出を決めた。 東京五輪代表内定を得たことについて問われた川井は「今、こうやって、ここにいられることに幸せを感じる」と答えた。だが、まだ決勝戦を残しているからか、笑顔を見せないままだった。 川井が言う「思い出した」ことのなかでもっとも大きな転換点となった出来事は、4年前、本来より上の階級でリオ五輪予選である2015年世界選手権へ出場したことだろう。 「ずっと馨さんに勝ってオリンピックに出たいと思っていたから、4年前も馨さんと同じ階級で挑戦を続けるつもりだった」と、最初は階級変更をすすめられても、そのつもりがなかったという。 当時の川井は58kg級で伊調に挑戦し続ける急成長の若手選手だった。将来は川井が日本の女子レスリングを代表する選手になるだろうと多くの関係者が認めていたが、それは未来の話で、今すぐとは考えられていなかった。川井自身も、いつかは五輪へ出たいと考えていたが、まず国内で伊調に勝ち、世界チャンピオンになり、それから五輪金メダリストになる順番で未来予想図を描いていた。 ところが4年前、伊調と代表争いの決着をつけるのは先延ばしにし、本来よりも重い63kg級で五輪に出る変則的なコースを歩むようにすすめられた。 「逃げたと思われたくない」 自分の課題はメンタルと言いつつ根本的に負けず嫌いで、決めたことを譲りたくない川井にとって伊調との代表争いを回避する五輪の目指し方は認めづらい道だった。 当時、伊調の力がズバ抜けていたために同じ階級での試合を避ける選手が続出、全日本選手権などではエントリー選手が、この階級だけ極端に少なかったなか、「自分は逃げない」と決めていたからなおさらだった。少女らしい生真面目さも手伝って愚直に伊調への挑戦を続けていた川井にとって階級変更は卑怯なやり方にうつったのかもしれない。