女子レスリング川井梨紗子の東京五輪代表内定で伊調馨の五輪出場可能性は完全消滅したのか?
だが、周囲から63kg級への変更をすすめられる理由が理解できないわけではなかった。世界で勝負できる特定の代表選手がいなかった同階級で、伊調と好勝負をできるほどに成長していた川井なら、金メダルも絵空事ではなかったからだ。悩んだ末に出した結論は、これは逃げたのではなく、力をつけるための別の方法と考えること。決めたあとの川井は思い切りよくリオ五輪本番まですすみ、大学4年生で五輪金メダリストになった。 階級変更をしてリオ五輪に出たことは間違っていなかったと思っているが、「今でも悔しくて」いつかは伊調に勝って日本代表になりたい気持ちが残り続けた。その悔いに決着をつける場面が、4年後になって、五輪五連覇を目指して復帰する伊調に現役女王として立ち向かうという形で実現した。そして三度にわたる直接対決の結果、2019年の世界選手権57kg級代表の座を手にした。 逃げずに伊調と向き合って結果を得たなら、もっと幸せに浸ってもよさそうなのに、なぜ硬い表情のままなのか。今の川井には、自身の五輪二連覇だけでなく、62kg級代表である3歳年下の妹の友香子とともに五輪に出場し、二人そろって金メダリストになりたいという願いが加わっているからだ。 「私が小学生の頃からずっと千春さんと馨さんの伊調姉妹はそろって日本代表で、一緒に五輪に出ていました。二人ともすごく強いから、姉妹そろって代表になるのも軽々と実現させているように見えていました。でも、改めて自分たち姉妹が代表争いをしてみると、代表になるのも大変なんだなと身に沁みました。それでもせっかく友香子と二人そろってここまできたからには、二人とも一番いい結果をと思っています」 妹の友香子の結果には、実は伊調の今後の行方もかかっているとみられている。57kg級での東京五輪出場の可能性は消えたが、すべての可能性が消滅したわけではない。 五輪代表が内定していない近接の階級であれば、再挑戦する可能性が出てくるからだ。現行のルールは、試合当日の朝に計量をする57kg級は、前日計量に慣れていたベテランの伊調にとって予想外に大きな負担だったらしい。もし、一階級上の62kg級だったら、余力を持ってチャレンジできたかもしれない。 あくまでもこれは、62kg級の東京五輪代表が内定しなかったら、という仮定の話でしかない。何より、周囲の関係者からは、伊調の階級変更の可能性が聞こえてくるが、肝心の本人は沈黙を貫いている。その結論が出るのは19日の夜、57kg級の川井梨紗子が決勝戦に挑む少し前に判明する。そのときには、幸せに満ちた笑顔をみせてほしい。 (文責・横森綾/フリーライター)