“無理難題”求められるミニバン 新型アルファードの正しい進化
対してミニバンの場合、ぶっ飛ばすために買う人はほぼいない。のんびり快適であることを求めて買われるクルマだ。トヨタのグローバルサイトでの主査のインタビューを抜き出せば「大きなボディなのにすごく運転が楽で、疲れない。乗り心地がよくて、音も静か。そしてとても広く、大きくて、使い勝手がいい」ということになる。 だから当然1人か2人乗りの普段使いでも、温和な乗り心地が求められる。だが、そこに合わせたサスペンションチューニングをしたらフル乗車で確実に破綻する。破綻とは安全性が確保できないということである。それはマズイ。 なので、どうしたって8人乗りで調整する。8人がのんびりゆったり高級にということで「ファーストクラスみたいな豪華な椅子を付けろ」という話になる。そしてこの椅子が馬鹿重い。室内が寂しくない様に意匠をこらした内張りを張り巡らして、LEDとかの発色変化する室内灯なんかまであしらわれるわけだ。エアコンの室内機だってリア用が必要だ。オーディオだって後ろの乗員にもちゃんと良い音がしなくてはならないからスピーカーが沢山必要だ。 こういう要求を聞けば聞くほどクルマはトップヘビーになる。だからアシを硬くしないと危ない。なのに「乗り心地が悪い」と怒られるのである。エンジニアは内心理不尽だと思っているに違いない。
ルーフを20ミリ低くし重心を下げる
なので、アルファードは先代も今回も基本モデルチェンジの時にエンジニアリング的に頑張ったポイントはかなり共通している。床を低くして旧型比で同じ空間高を維持しつつ、ルーフを下げた。新型では20ミリ低くなった。いろいろと悪さをする重心を少しでも下げようと言う涙ぐましい努力である。これには拍手したい。 併せてボディ後半部分の剛性向上に取り組んだ。強度の高い高張力鋼板の採用範囲を広げ、床下には補強板を追加、さらにスポット溶接の増し打ちをしたり、構造用接着剤を使ったりと手を尽くして、特性上、脆弱になりがちなボディの補強に臨んだのである。 そしてフル乗車に荷物を積んだ状態で「遅っ!」と言われないためのパワートレイン設計でも頑張る。これはもうエンジン単体ではどうしようもないので、トランスミッションも含めて総力戦で加速感を作りだしている。それだけ無茶をさせる癖に「燃費悪いよね」という自称“神様”のために燃費も考えなくてはならない。筆者だったら「1人か2人乗りで乗り心地が良くて燃費が良いクルマが欲しいんなら小さいクルマにしたら?」と言いたくなる。しかしメーカーの人はそれは言えない。神様のために身を粉にする宗教的境地にいるのかもしれない。