労災防止に生成AI活用 日立「現場作業者のリスクを減らす」仕組みとは?
日立製作所は、工場や建設現場など職場での労働災害を未然に防ぐための安全管理業務に生成AIを活用し、リスクアセスメント(危機評価)を高度化するソリューションを開発した。「生成AIプロフェッショナルサービス powered by Lumada」の新メニューとして提供する。現場で働くフロントラインワーカー(現場担当者)の「安全・安心」を支援。労災の防止と安全な職場環境の提供に貢献していく狙いだ。 【写真で見る】生成AIサービスの全体像
労災のリスクアセスメントを高度化 どんな仕組み?
同ソリューションは、職場での労災につながるリスクを評価するリスクアセスメントを高めるものだ。日立グループが多岐にわたる事業領域で、デジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称である「Lumada」に蓄積してきた安全管理に関する知見と、Generative AIセンターのデータサイエンティストが持つ生成AI活用の技術を掛け合わせて開発した。 建設や輸送、電力、ガス、鉄道など現場設備や工場を有し、安全へのリスクが高い業務を持つ企業に向けたソューションで、活用することで重大な災害につながる危険源を特定する際の抜け漏れを防ぎやすくなるという。有効な対策の策定を通じて、職場の継続的なリスク低減にも役立つ。 2023年に厚生労働省が発表した第14次労働災害防止計画では、2027年までに製造業で機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を5%以上削減することや、建設業での死亡者数を15%以上削減することが目標に掲げられている。 しかし「担当者の理解度の違いによってリスクアセスメントの結果がばらつく」「リスクアセスメントに手間や時間がかかる」「暗黙知と化している」といった課題があった。 これらに対処するため、日立は技術開発やグループ内での実証を進めてきたという。生成AIを活用して、リスクアセスメントにかかる担当者間の評価精度のばらつきを解消し、品質を向上させてきた。その結果、安全業務の担当者が作成したリスクアセスメントの結果に対し、約9割の精度で適切でない記述を指摘し、改善案を提示できることが確認されたという。 同ソリューションは、顧客の安全管理業務の社内規定や過去の事例などを踏まえ、顧客のニーズに合わせカスタマイズして提供する。また、生成AIが提示する改善案のさらなる精度向上を図る技術として、検索結果やリスクアセスメントの推奨情報を複数の生成AI同士で議論させ、より良い回答を導く仕組みについて特許取得を進めている。 さらに、幅広い事業領域で生成AIの高いパフォーマンスを実現するための調整方法についての成功事例やノウハウを蓄積。同ソリューションの実用化に向けてAIの回答精度を向上させる独自開発を進めている。これにより、ソリューションの継続的な強化を目指す。 同ソリューションの利用イメージはこうだ。まず、安全業務の担当者がリスクアセスメント結果を記入する。次に、担当者は生成AIにリスクアセスメント結果を入力し、記載内容の妥当性や正確性の判定を依頼する。 生成AIがレビュー役として内容を確認しOKかNGかの評価結果を出力する。NGと判定された場合は、その理由などがフィードバックされる。最後に、担当者は生成AIの回答をもとに自身のリスクアセスメント結果を見直す。 日立は今後、AIソリューションを統合する「Platform of Platforms」のプラットフォーム・アーキテクチャーを活用し、社内で得た開発成果やナレッジをユースケースとして蓄積していくことを展望している。生成AIソリューションのさらなる拡充も目指す。 (小松恋、アイティメディア今野大一)
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