『チキン・ポリス:巣箱の中へ!』レビュー。ニワトリ刑事コンビが帰ってきた! 実写合成の獣人世界が舞台のノワールアドベンチャーに続編が登場
インディーパブリッシャーのJoystick Venturesは、The Wild Gentlemenが開発したアドベンチャーゲーム『チキン・ポリス:巣箱の中へ!』(原題: Chicken Police: Into the HIVE!)を、2024年11月8日にPCで発売する。今回レビュー版をプレイしたので、その内容をご紹介しよう。 【記事の画像(8枚)を見る】 なお本作は家庭用ゲーム機版も後発で発売される方向で、プレイステーション5/プレイステーション4/Xbox Series X|S/Nintendo Switchに対応予定。配信時期等は未定なものの、日本の各ストアでも配信するという。 墓場から消えた遺体、種族隔離の狭間で広まる新宗教……クロウビルでうごめく新たな闇を暴け 本作は、獣人族(+昆虫族)が暮らす街“クロウビル”を舞台にしたアドベンチャーゲーム『チキン・ポリス』(原題: Chicken Police - Paint it RED!)の続編。シリーズの特徴は、ハードボイルドなノワールタッチの演出とストーリー、そして実写の俳優の演技に動物や昆虫の頭を合成した独特なキャラクター表現だ。 ジャズがゆったりと流れる中で妙に生々しい獣人たちがシニカルなオトナのやり取りを交わしていく、奇妙でゴージャスな唯一無二の体験は本作でも健在、いやむしろパワーアップしていると言えるだろう。 主人公のニワトリ刑事サニーと若き相棒のマーティたちの会話は、時折ちょっとウザくもちゃんと全部聞いてしまう楽しさがある。疲れ切って引退を考えるようになったサニーのボヤキに、マーティが軽口を交えながら元気づけたり、受付嬢のモニカが呆れたり、腐れ縁の悪友たちがラフな会話を交わしはじめたりするさまは、定番の映画シリーズのような安定感すらあるぐらいだ。 いかにもな感じのハードボイルドな独白シーン……なのだが、よく見ると「指先を伸ばす」だろう箇所が「手羽先を伸ばす」になっていたりする。まぁ鳥だからね。「人間タイプの手を持ってんじゃねぇか」というツッコミは野暮というものだ。 しかも今回はモノクロだけでなく(カラー映画初期のような淡い色の)カラーモードでもプレイできる。 さて今回、サニーとマーティの刑事コンビ“チキンポリス”は、墓場から消えた遺体のゆくえを探る依頼をきっかけに、隔離された昆虫族が暮らす地域“巣箱”(ハイヴ)に飛び込んでいくことになる。 アメリカの人種隔離政策があった時代を連想させるダークで爆発寸前の状況で、チキンポリスの2羽は国をも揺るがす“鳥生”(ゲーム中の表現。人ではなく鳥なので人生のことをこう言う)最大の危機を迎えるのだ。 推理ゲームというより、あくまでノワールな刑事モノのパロディ 刑事が主人公ということで、推理/探偵アドベンチャー的な内容を予測する人もいるだろうが、ちょっと違う。プレイヤーの選択や推理よりも、あくまでプレイヤーの行動とともに進行していくノワールなストーリーを楽しんでいくのが主眼のゲームだ。 ゲームシステムとしてはポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲームになっていて、手掛かりのありそうな場所に行き、現地を調べたり聞き込みをして新たな情報をゲット。それを元にまた新たな場所へ……といった形で進んでいく。 機嫌メーターを気にしながら質問をぶつけていく。十分に聞き出せなかった時はリトライ可能。 確かに本作には現場検証や証拠物のチェック、関係者への聞き込みパートなどの推理ゲーム的な要素もあるのだが、それは犯行の様子などを推理する謎解き要素というよりも、プレイヤーに新たな話の展開を提示するための刑事モノとしてのストーリーテリングのツールという部分が大きい。 なので若干、ゲーム側がプレイヤーにやって欲しいこと、知って欲しい情報にたどり着かないと進まないような形にしばしばなっているのは好みが分かれる部分かもしれない。 ちなみに人生をいちいち鳥生と書くような獣人パロディとしての“置き換え”は前作よりはるかにボリュームアップ。ついでに老境に差し掛かったサニーたちのオヤジギャグも増えている。 慣用句などもそれぞれの種族にまつわるモノ・コトで言い換えられていたりするのだ。 一方で、前作やスピンオフ作品(後述)では噂や周辺人物が軽く出てくる程度の扱いだった巣箱に本格的に踏み入ることになる今作では、昆虫族が大々的に登場することを触れておかなくてはならないだろう。 日本の家屋であまり好かれない“黒いアレ”の連中(もちろん人間サイズ)が出てきたり、セリフの合間にキチキチシューシューと異音を鳴らしていたり、しまいには解剖シーンまであったりするのは、ちょっと「うぉっ」となる部分もあった。個人的には“巣箱”の特殊性とか動物族と昆虫族の距離感などを実感させる表現として受け取ったのだが、生理的に厳しい人がいても仕方ない。 ちょっと文化的な摩擦があったりギョッとしたりもする中で、それでも正義を追っていかなければいけないわけです。 より洗練された作品になった一方、“野性味”は少々減った まぁそういう尖った部分もあるのだが、ここで初代作を振り返ってみると、開発のThe Wild Gentlemenがゲーム作りに慣れて開発が洗練されてきたことがわかる。前作はスタジオの第1作でもあり、それが多少無茶でもアイデアを優先して強引に作っているような部分があったのは否めなかった。 たとえば前作のサニーの捜査ノートは彼の発見がイラストを交えて描かれていくのだが、これは見た目が面白いもののローカライズに向いておらず、オーバーレイのテキスト表示を強引にくっつけていた(開発いわく、画面の小さい環境にも良くなかったらしい)。 前作の捜査ノート。英語版は手書き文字やイラストで構成されているのだが、ローカライズ言語では(グラフィックを置き換えるのではなく)翻訳テキストをオーバーレイ表示する形だった。 それに対して今作の捜査ノートでは、調査していることや各人物・場所などの情報がすべてテキストベースで整理されていて、オーバーレイ表示なしにどの言語でも同じような体験ができる。こういったような部分は他にもあって、開発チームたちのストレートな言葉を借りれば「よりプロっぽく」なっているのだ。 今作の捜査ノート。テキストベースなのでそのまま置き換えられる。いちいちオーバーレイを出さなくていいので読みやすいが、普通っちゃ普通。 ここで「でも、捜査状況が絵で綴られてく方が良くない?」と思った人もいるだろう。それもまた正しい。捜査ノートは一例に過ぎないが、そういった勢い任せの“野性味”はいろんな部分でちょっと減ってしまった感がある。ユーザーインターフェースの点などで遊びやすくなっているのは間違いないので、痛し痒しといったところか。 前作のナイトクラブシーンもほぼ360度パノラマのようになっていてなかなかワイルドだった(だがスクロールがめんどくさい/わかりにくいという問題があった)。今作にもスクロールがあるシーンは存在するが、範囲は狭く、重要なものは大体1画面に収まっていることが多い。 夜に名画を見るようにじっくり楽しみたい作品 というわけで本作、革新的な大傑作というわけではないのだが、「獣人たちが暮らす世界のノワール」というコンセプトに沿ってより充実させた、クラシックな名画のように夜にじっくりと楽しみたいタイプの作品となっている。 参考までに、クリアーまでは記者のプレイでは8時間前後といったところだ。なお登場キャラクターや作中の出来事や固有名詞はセリフでもゲーム内データベースでもじっくり解説されているので、前作をプレイしなくても本作を十分に楽しめるだろう。でも登場人物の過去を知っているとより深く楽しめることは言うまでもない。 世界観やキャラクターを共有するスピンオフ作品も複数存在 The Wild Gentlemenはこの獣人世界を共有するユニバース“World of Wilderness”を展開しており、前作『チキン・ポリス』以外にも以下の作品が存在する。本作にも登場するキャラや場所が出てくるので、気になる人はそちらもチェックしてみてはいかがだろうか。 ・アドベンチャーゲーム『Zipp's Café』(PC、日本語対応、発売中) ・クロウビル市街と巣箱の境目にあるカフェオーナーのジップが主人公の短編アドベンチャーゲーム。『コーヒートーク』系の内容で、お客に飲み物や食べ物を出してもてなしつつ、彼らの問題を解決していく。 ・アドベンチャーゲーム『Moses & Plato - Last Train to Clawville』(PC、日本語対応、未発売) ・チキンポリスたちの同僚でありライバル的存在が主人公のアドベンチャーゲーム。チベットスナギツネのモーゼスとマヌルネコのプレイトーのコンビが列車での殺人事件に巻き込まれ、疑惑を晴らすために捜査を展開する。デモが配信中。 ・タクティカルストラテジーゲーム『WILD Tactics』(PC、日本語対応未定、未発売) ・クロウビルの組織犯罪に対抗する特殊作戦チームを主人公とするターンベースのストラテジーゲーム。戦闘システムは『XCOM』的なものになる模様。