プリウスのSUVモデル トヨタ「C-HR」ターボに感じる疑問
徹頭徹尾「エコ」のための設計
それを何とか出来る可能性がターボにはある。図はC-HRターボの8NR-FTSの性能曲線だが、トルクは1500rpmでピークに達して、4000rpmから落ちて行く。しかもその間はフラットだ。こういうトルクカーブが出来たのは小型のタービンを使って、低回転から十分な過給圧を上げられるからだ。しかし一方で、1500rpmですでにターボの能力が限界に達し、ウェイストゲートを開いて排気のエネルギーを捨てている。そうやって調整しているから4000rpmまでフラットなトルクになっているとも言えるし、ターボのお陰で4000rpmまでトルクがタレずに済んでいるとも言える。 技術的に見れば、直噴インジェクターによって、吸気を気化潜熱で冷却してノッキングを防止し、その結果、圧縮比を10:1まで高めていることが効率アップの一つのポイントだ。さらに排気を熱交換器で冷却して吸気に戻して再循環させるクールドEGRによって、有効酸素量を減らす設計になっている。排気ガスのような不活性ガスを吸気に混ぜると燃焼温度が下がる。これによって燃焼温度を押さえるとノッキングし難くなり、点火タイミングを遅らせずに済むようになるので熱効率が上がるのだ。
このエンジンは徹頭徹尾エコのための設計で、設計趣旨をみれば、最大最小ギヤ比の差(レシオカバレージ)が大きい変速機と組み合わせて、1500~2500rpmを保って走らせることによって、燃費を稼ぐことを目的としている。そこから上はおまけだ。 マニュアルトランスミッションのクルマに乗ったことがある人なら分かると思うが、車両が停止したニュートラルギヤ状態で、レッドゾーン入り口ぴったりにアクセルを踏み込んで調整すると、かなりの踏み込み量になるのはイメージ出来ると思う。この状態でタコメーターの針が静止していると言うことは、その踏み込み量のエネルギーとエンジン内部の摩擦がちょうど釣り合っていることになる。エネルギーが上回れば針は上昇を続けるし、摩擦が上回れば、回転は下がる。つまり針が静止した状態は800rpmであれ5600rpmであれアイドリング(自立運転)なのだ。 ではその5600rpmキープのアクセル開度を保ったまま(エネルギー量を変えずに)ギヤを1速に入れて走り出せばどうなるかと言えば、クルマは加速する。ギヤを上げて行くと速度はどんどん上がって行き、恐らくは時速50キロ程度まで加速出来るはずだ。エンジンにもよるが、仮にレッドゾーンが5600rpmで、トップギヤでの時速50キロが3000rpmだとすれば、差分の2600rpm分の内部摩擦エネルギーはクルマを時速50キロで走らせるほどのエネルギーだと言うことになる。 つまりエンジン回転を下げることは、エンジン内部の損失を想像以上に減らすことに繋がる。大型トラックのディーゼルエンジンでは30年前から当たり前の考え方だった。問題は低速でのトルクが不足すると登坂などの時に巡航速度が維持できなくなる。高速巡航で必要なのは空気抵抗と転がり抵抗の和と釣り合う仕事量だ。仕事量はトルクでなく馬力なので、トルク×回転数なのだが、回転数を落としたいのだから、いじれるのはトルクだけなのだ。だからどうしても低速域から十分に過給したいのである。 低燃費への執念はこれだけでは終わらない。巡航と言ってもパワーが大して要らない場面もある。そこでは1.2まで減らした排気量をさらに減らしたい。何しろエンジン回転はすでに下げられるだけ下げているので、それ以上、回転は下げられない。だから有効排気量を減らすのだ。そのためにEGRを使って、酸素の量を減らす。燃焼を維持できるのはEGRの添加量30%程度が上限と言われている。 つまりEGRを最大にした時1.2リッターエンジンは30%減の840cc相当まで能力を落とせる。EGRの仕組みは排ガスとも絡んで複雑なのだが、その辺りは別の機会に譲りたい。とりあえず、省燃費目的の小排気量ターボにとって、高回転を求めることとピークパワーの追求は鬼門だと言うことさえ押さえてもらえればそれで良い。