日本人選手のアメリカでのイメージを刷新した大谷翔平の「圧倒的なパワー」
大谷の打撃スタイルは「イチローの真逆」
そんななかで大谷は、従来の「日本人野手」のイメージを完全に破壊した。 MLBで自身初のMVPを獲得した2021年の大谷は、投手として以上に打者としての活躍が目覚ましかったが、その打撃スタイルはハッキリ言って「大型扇風機」だった。メジャー3位の46本塁打を放つ一方で、189三振はメジャーワースト4位。バットの芯に当たった打球は軽々とスタンドまで飛んでいくが、ボールがバットに当たらないことも多い。その打撃スタイルは素人目に見たら「イチローの真逆」とも思えるものだった。 2021年の大谷は、過去の日本人メジャーリーガーにはいないタイプの打者だったのだ。 ホームランや三振の数といった「結果」だけでなく、それらの結果をもたらした「過程」の数字も凄かった。具体的には、2015年からMLBが最新テクノロジーを駆使して計測を開始した「打球速度」や「バレル率」といった指標において、軒並みメジャー屈指の数字を残したのだ。 「打球速度」は打球がバットから放たれた瞬間の初速を表し、「バレル率」は簡単に言うと「ホームランになりやすい打球」を放つ確率である。これらの指標は打率やホームラン数といった従来のスタッツよりも純粋に打者としての能力を表すとされているが、2021年の大谷は「打球速度」の平均が93.6マイル(約150.7㎞)でメジャー全体の上位3%に入り、「バレル率」22.3%はメジャーでトップだった。 並みいる強打者のなかでも、大谷は突出して「強い」打球を飛ばしていたのだ。
「今まで見たなかで最も身体能力に恵まれた野球選手」
これらの数字は大谷がいかに「身体的」に優れたアスリートであるかを物語っている。 もちろん野球技術も高いのだが、それ以前にまずフィジカルが圧倒的に強い。2021年5月、9回二死から大谷に逆転2ランホームランを献上したボストン・レッドソックスの投手マット・バーンズは、大谷を「今まで見たなかで最も身体能力に恵まれた野球選手」と評した。特大ホームランを放ったり、時速160㎞の速球を投げたりするには、まず何よりも運良く生まれ持った強靭な肉体が必要で、その上で効率的なトレーニングや技術の向上が求められる。大谷の肉体はまさに「神が与えた」と言うべき、天賦の才ならぬ天賦の肉体だ。 前述のように、かのチッパー・ジョーンズも大谷の肉体を「これまで見てきたベストな野球体型のひとつ……彼はアドニス(ギリシャ神話に登場する美少年)だ」と評したほどだ。 【内野宗治】 (うちの むねはる)ライター/1986年生まれ、東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、フリーランスライターとして活動。「日刊SPA!」『月刊スラッガー』「MLB.JP(メジャーリーグ公式サイト日本語版)」など各種媒体に、MLBの取材記事などを寄稿。その後、「スポーティングニュース」日本語版の副編集長、時事通信社マレーシア支局の経済記者などを経て、現在はニールセン・スポーツ・ジャパンにてスポーツ・スポンサーシップの調査や効果測定に携わる、ライターと会社員の「二刀流」。著書『大谷翔平の社会学』(扶桑社新書)
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