日本人選手のアメリカでのイメージを刷新した大谷翔平の「圧倒的なパワー」
パワー不足を批判されたイチロー
イチローの魅力は言うまでもなく、長打力よりもシュアな打撃、そしてスピードと華麗な外野守備だったが、多少粗削りでも長打力がもてはやされる21世紀のMLBにおいて、イチローのパワー不足は批判されることが少なくなかった。 10年連続200安打は確かにすごい記録だが、その多くは足で稼いだ内野安打で、一発で試合を決めるような長打はほとんどないじゃないか、と。試合では長打の少なかったイチローが、試合前の打撃練習ではサク越えを連発していたのは有名な話だ。現役引退後は毎年、草野球チーム「イチロー選抜KOBE CHIBEN」を率いて高校野球女子選抜チームと試合を行っているが、その試合前のフリー打撃でもやはりサク越えを連発している。 50歳とは思えないパワー。現役時代のイチローが試合であまりホームランを打たなかった(打てなかった)理由のひとつは、ホームランよりもヒット狙いを重視していたからだろう。イチローがもしホームランを狙うようになればシーズン30発は余裕で打てる、と言う人もいた。 しかし、もしホームラン狙いの打撃で打率が下がってしまうならそれまでの話だ。たとえばイチローと同じ2001年にデビューした強打者アルバート・プーホルスは毎年、打率3割以上のハイアベレージを保ちながらシーズン30本以上のホームランを量産した。ボンズやマニー・ラミレス、デービッド・オルティス、アレックス・ロドリゲスといった同時代の超一流スラッガーたちも同様だ。彼らはMLBでもトップ・オブ・トップの選手たちだが、少なくとも総合的な打撃力を見た場合、イチローの成績は彼らに遠く及ばない。 もっともボンズやラミレス、ロドリゲスら、イチローと同時代に活躍したスラッガーたちの多くは違法薬物、ステロイドの使用疑惑があり、彼らの功績を手放しで称賛することはできないのだが……。
「日本人の打者はコンタクトが巧みで、スピードがあって守備もうまいがパワーには欠ける」というイメージを持ったアメリカ人
以上の話は決してイチローの功績を軽視するものではない。彼がアメリカ野球殿堂入りに値する選手であることは疑いの余地がない。ただ事実として、彼はMLBの花形であるスラッガータイプの選手ではなかった。そしてイチローの活躍はあまりにセンセーショナルだったため、アメリカの野球ファンは「日本人の打者はコンタクトが巧みで、スピードがあって守備もうまいがパワーには欠ける」というイメージを持つようになった。 イチローが「日本人野手」の代表的な存在になったのだ。実際にイチロー以外の日本人野手もこれまで、たとえば松井稼頭央や西岡剛、青木宣親、川﨑宗則ら「俊足巧打」タイプの選手が多かった。日本野球の十八番は「スモールベースボール」であるという認識が、日本人にもアメリカ人にも浸透していた。