日本製鉄はUSスティールの買収で米大統領らを提訴
勝訴できるかは不確実だが提訴する意義は大きい
日本製鉄による買収計画に先立ち、クリーブランド・クリフス社もUSスティールの買収に動いていた。今後も買収の試みを続ける可能性があるが、両社が統合されれば、米国内での市場シェアが大きくなることから、独占禁止法違反の恐れが出てくる。そのため、クリーブランド・クリフス社もUSスティールの買収は難しいとみられる。USスティールの自力更生が難しいとすれば、外国企業との買収を今後も模索せざるを得ないだろう。 日本製鉄の橋本会長は記者会見で「違反を確信、勝訴のチャンスはある」と語ったが、実際には勝訴は簡単ではないだろう。過去にCFIUSの審査を経た後の大統領の買収停止命令が提訴によって覆されたことは1例しかない。 それでも、裁判を通じて「安全保障上の脅威がある」として買収停止を命じた大統領の判断の妥当性の問題を強く問うことができれば、将来、日本企業が米国企業を買収する際に、大統領がそれに対して安易に停止命令を出すことに歯止めをかけることができる可能性がある。日本製鉄は勝訴しないとしても、提訴にはそのような意義があるだろう。 同盟国である日本の企業による米国企業の買収が、「安全保障上の脅威がある」として阻止されたことは、「(日本は米国の)仲間だと思っていたら、実は仲間ではなかった」、「日本異質論に基づくかつてのジャパンバッシングの考えがまだ米国には残っていた」との大きな失望感を日本企業に与えたのではないか。それは、今後の対米ビジネスを委縮させ、日米双方の経済にも悪影響を与えうる。 そうした事態を回避するためにも、日本製鉄は裁判を通じて、大統領による今回の買収停止命令の問題点を浮き彫りにして欲しい。 (参考資料) 「日鉄、米大統領ら提訴」、「日鉄、証拠集めへ2方面作戦」、2025年1月7日、日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi)に掲載されたものです。
木内 登英