アギーレJが取り戻したギラギラ感の背景にあるものとは?
長谷部は逆三角形型で構成される中盤の底、アンカーと呼ばれるポジションを任された。もちろん初体験であり、ワールドカップ・南アフリカ大会で岡田監督が採用した、阿部勇樹(浦和レッズ)をアンカーに置き、前方に遠藤と長谷部が配置された布陣とも「違いますね」と振り返る。 「攻撃の組み立てもそうですし、守備のときもインサイドハーフの選手の守り方が全然違う。僕自身は初めてのポジションだったので、とにかく頭を使おうと。あまり前へ出すぎずにリスクマネジメントを考えて、攻撃のときは最終ラインに入って、センターバックの2人を使って攻撃をビルドアップすることを心掛けました」。 母国メキシコでのイベントに出席するために合宿初日の10日に離日し、公式練習直前に再合流したハビエル・アギーレ監督は、ホンジュラス戦での必勝を明言していた。 「明日の試合は立ち上がりから勝ちに行かないとならない試合だ。我々はホームだし、痛い敗戦が前回あった。刺さったトゲを抜くためにも勝利は必要だ」。 試合前のミーティングでは、アギーレ流の毒舌を駆使して選手たちにこんな檄を飛ばしている。 「今日の試合は経験のある選手たちが出るので、失点につながるミスは許されない」。 指揮官が口にした「前回の痛い敗戦」とは、シンガポールで行われた10月14日のブラジル代表戦に他ならない。代表経験の浅い選手たちを先発させた一戦は、エースのネイマール(バルセロナ)を中心とする王国の攻撃力の前に0対4で惨敗。テストマッチへの臨み方だけでなく、メキシコ人指揮官のチーム作りに対しても懐疑的な目が向けられ始めた。 そもそも、「トゲが刺さった」状態になった原因はブラジル戦だけではない。初陣となった9月5日のウルグアイ代表戦から「アジアカップへ向けたテスト」という言葉を連呼。代表に生き残りたいという選手の本音は、ベンチ前で目を光らせるアギーレ監督の存在を必要以上に意識させた。 先月までの4試合で1勝1分け2敗、得点3に対して失点は8を数えた。10月10日のジャマイカ代表戦であげた新体制下での初勝利も、相手のオウンゴールによってもたされたものだった。そうした試合結果以上に、オーディションという雰囲気に強く支配されたことで、日の丸の重みがなかなか感じられない試合内容に終始した感は否めない。 具体的な指示を出さないアギーレ監督の基本方針に、戸惑う若手選手たちも決して少なくなかった。いわく「私はヒントを与えるが、それをピッチの上で発展させるのは選手たちだ」。生じかけたギクシャク感も、百戦錬磨の経験を持つベテラン勢には無縁だった。長谷部が言う。 「監督から『これはするな』ということは言われていない。こういうような形はあるよ、というヒントを与えられている中で、ピッチの中でプレーするのは自分たちだし、その部分で臨機応変に組み立ててやった部分もある。今日は相手がそんなによくなかったというのはありますけど、6対0で勝つ代表戦もなかなかない。点が取れたということに関しては評価できると思う」。 日本代表で多くの時間を共有してきたメンバーをベースに戦うことで、ホンジュラス戦のピッチ上では何度もあうんの呼吸が見られた。しかしながら、新体制下のスタートでこうした陣容で戦い、代表だけが持つ独特の「重み」を伝えながら新戦力を融合させていくのがチーム作り及び世代交代のセオリーなのではないだろうか。