藤井聡太7冠、なぜ初失冠?「変化」志向し「芸域」広げる途上と杉本昌隆師匠が分析
将棋の藤井聡太叡王(21)が20日、甲府市「常磐ホテル」で行われた第9期叡王戦5番勝負で、挑戦者の伊藤匠七段(21)に対戦成績2勝3敗で敗れ、全8冠から7冠へ後退した。絶対王者は、なぜ初失冠したのか? 【写真】第5局投了図 師匠、杉本昌隆八段(55)は藤井の全8冠獲得後の「変化」を指摘した。タイトル戦の前夜祭などで藤井は「おもしろい将棋をお見せしたい」というフレーズを数多く、口にするようになった。 「明らかに未知の将棋ということだと思う。振り飛車とか戦術ではなくて、展開のことだと思う。未知の局面で勝負する力戦系の将棋を志向した言葉だと思う」 新しいものへの好奇心・探究心が人一倍強い藤井は全8冠獲得を一区切りに「変化」を求めた。同学年の伊藤との叡王戦5番勝負第2局では、人工知能(AI)の研究量を問う「定跡」から外れた力勝負を挑み、初黒星を喫した。多様化する序盤の展開に対応していくために、あまり指していない形を試そうとした結果だった。 叡王戦、初防衛を果たした名人戦では、圧倒的な終盤力を誇る藤井が終盤で、悪手を指すケースが目立った。名人初防衛後の会見で藤井はこう自己分析した。 「要因ははっきりとは分からないが、少し読みの精度が下がり、ミスにつながっているところがいくつかある」。その背景として「名人戦はじめ、これまで経験の少ない将棋になることが多く、局面における判断力が十分ではないのかなと思う」。挑戦者たちが全8冠の一角を崩そうと、さらに藤井対策の精度を上げ、「未知の局面」へと誘った。 初失冠となった叡王戦5番勝負の敗退について「終盤でミスが出てしまったので、やむを得ないかなと思っている。伊藤さんの力を感じるところも多くあった」。藤井らしからぬ指し手が続いたことを悔やんだ。 杉本はこう分析する。「角換わりと相掛かりに加え、1つ得意な戦術を増やそうとしているのかもしれない。定跡系は最先端にも精通しているので、そのままのスタイルでも、かまわない。あえて、未知の局面にも挑戦している。ときおり、そういう将棋を交えることで、自分の芸域を広げたい。そんな思いがあるかもしれない」。野球でいえば、ストレートの剛速球しか投げていなかったが、変化球を交え、投球の幅を広げようとした。高いレベルを目指し、「変化」している途上での失冠だった。【松浦隆司、赤塚辰浩】