野良猫を餌付けする「餌やりさん」、困らせる人とそうでない人の「決定的な違い」とは
東京、千葉、福島を中心に、動物の保護活動を行っている坂上知枝さん。2020年には、一般社団法人動物支援団体「ワタシニデキルコト」を立ち上げ、現在、シェルターを併設した動物病院の設立を準備している。この連載では、坂上さんに、これまで出会った保護犬猫とのエピソードを語っていただく。 【写真】“餌やりさん”の「後脚が動かない野良猫を何とかして」の連絡で保護した縁蔵 今回は、“餌やりさん”からヘルプ要請があり、坂上さんが保護することになった、オス猫の縁蔵(えんぞう)を紹介する。
餌やりさんの責任とは
ここでいう「餌やりさん」とは、文字どおり、飼い主のいない猫に餌をやる人のことを指す。 「以前から存じ上げていたある餌やりさんから、『後脚が動かない野良猫がいるので助けてほしい』と言われたので、見にいったところ、後脚をひきずって前脚だけで移動している猫がいました。それが縁蔵です。縁の下で捕獲したので縁蔵と名付けました(笑)」(坂上さん、以下同) 餌やりさんが「7年は自宅ベランダで餌やりをしている」と話していることから推定年齢は9歳。去勢はされていなかった。 「歩けない動物は、ほかの動物に襲われてしまう危険性があります。餌やりさんは、一人暮らしで自分でも猫を飼っているので、家には入れられない、お金もないので餌をやる以上のことはできないとのこと。急いだほうがいい状況だったのでワタデキが保護することにしました」 自分のお金で餌を購入し、定期的に猫に届ける。水もあげて食べ残しは片づける──。餌やりさんは基本的には猫思いのやさしい人だ。それは大前提ではあるが、坂上さんは「餌やりをするならば不妊去勢手術は実施して欲しいし、関わりはじめたならば最期まで責任を持ってほしいと思っています」と語る。
大切なのは、猫が幸せになれるかどうか
無責任な餌やりは、長い時間、餌を置いたままにしておくことでカラスやネズミが寄ってきて残骸を荒らすなど、不衛生な環境を生み出してしまう場合もある。 野生のタヌキが弊害を被ることもある。元々粗食で生きているタヌキが栄養過多のキャットフードを食べることで過栄養となり、疥癬(かいせん)症を発症、悪化させてしまうと言われている。疥癬症にかかったタヌキは免疫力が下がり他の感染症にかかったりなどして、亡くなってしまうケースも多い。 また、餌をもらっている野良猫が近隣の家の敷地内で排泄し、迷惑を被っている人もいるかもしれない。 何より、昨今の酷暑で、高齢の猫の命が脅かされることもある。放っておくのはやはり危険が伴うのだ。 「餌をもらい続けることで、自分で餌を捕れなくなってしまう猫もいます。もし餌やりさんが引っ越したり、病気になったりして餌をあげることができなかったら、餌をもらっていた猫はどうなるのか……。 実際に餌やりさんの引っ越しにより、新たな餌場を求めて別の猫のなわばりにやってきた猫が、そこの猫たちに追い回され、ケガを負いながら彷徨う、という現場に出くわしたこともあります。 また、猫が病気やケガなどで動けなくなってしまうことも考えられます。『それは自然に生きる猫だから仕方がないこと』という餌やりさんもいますが、そもそも人間が毎日餌を与えている時点で『自然』には生きてはいません。ただ、かわいいから、お腹が空いてかわいそうだからだけではなく、大切なのは、その猫たちの一生を想像しつつ、関わりはじめたら最期まで責任を持つことだと思うのです。 猫の頭数を増やさないようにすることも大事です。不妊去勢をするのは自然の摂理に反しているという方もいますが、餌を充分に与えられている猫は栄養状態がいいので、生まれてくる頭数も増加する傾向があります」