日本が危険に直面しても、なぜ「円は安全」なのか?
29日の日本時間早朝に北朝鮮がミサイルを発射。それが伝わると円が急速に買われ、USD/JPYはそれまでの109.25円近傍から一時108.50円を割り込む水準まで下落しました。 こうした局面で「なぜ危険に晒されている日本の円が買われるのか?」という質問にしばしば遭遇しますが、それは基本的に「円が安全資産の性格を有しているから」という説明が可能です。しばしば取り沙汰されるマネーゲーム的な投機筋の売買が一因になっている可能性は否定しませんが、それは一部を説明するに過ぎないでしょう。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
地政学リスクに直面した「円」が売られても、また買い戻されるのはなぜ?
日本は経常黒字国であり、その累積に相当する対外純資産残高は約350兆円、名目国内総生産(GDP)比で約70%と巨額。国際通貨基金(IMF)の集計ベースでは世界1位となっています。また同時にマイナス金利導入国で、長期金利も極めて低いレベルにあります。 円より高い利回りの通貨が存在する世界で、マイナス金利の円を保有することは投資の機会損失を意味します。それゆえ、投資家はリスク許容度が安定ないしは拡大している局面では、円を売って少しでも金利の高い(厳密には高くなりそうな)通貨を買うことで、金利差相当の利回りを狙います。 円売りの相手で最も代表的な通貨は米ドルですが、豪ドル(AUD)、ニュージーランド・ドル(NZD)、ポンド(GBP)など先進国通貨に対しても大きな取引があり、ブラジル・レアル(BRL)、トルコ・リラ(TRY)、南ア・ランド(ZAR)など新興国の高金利通貨に対しても個人投資家を中心に多く円売りが観察されています。このような取引は投資家心理が安定している局面で拡大する傾向にあります。
そうした資金フローは、貯蓄超過(=経常黒字、≒対外純資産国)の国から、投資超過(=経常赤字、≒対外純債務国)へと流れることが基本です。そのため、何らかの理由で投資家のリスク許容度が低下すると、こうした一連の取引が巻き戻され、資金フローが逆回転をはじめます。