日本が国際社会でぐっと影響力を増すための「2つのアイデア」とは?――国際政治学の第一人者が提言
しかし、現在でも、紛争当事国は投票できないというルールはある。ロシアはこれは紛争ではなく、自衛だと強弁している。またジェノサイドについては、拒否権は行使できないのだが、ロシアはジェノサイドではないと言い張っている。こうしたロシアの主張を、総会の多数で否定する運動を起こすべきであり、何度も圧力をかけ続けるべきだ。 また、国連憲章第27条には、安保理の決議は常任理事国全ての同意を含む9票で可決と書いてある。これを、常任理事国の4国の賛成を含む、と変えるのである。つまり1国では拒否権は行使できず、最低2国が連携しないと行使できないという形に変えるのである。 これはとても難しい。アメリカも最初は反対するだろう。しかし、圧倒的多数の加盟国は賛成するだろう。米英仏と調整の上、ダメでもいいから、こういう運動を起こし、世論を喚起していくのが日本の責任だと思う。 そのためにも重要なのは、日本の過度の対米連携をやめることである。
かつて岸信介首相は1957年、日本が国連に加盟した翌年、日本外交の三原則を提唱した。国連中心主義、アジアの一員としての外交、そして自由主義諸国との協調である。安保改定を断行し、日米関係を強化した岸だったが、同時に国連やアジアを重視したのである。しかし、その後の日本外交は、一貫してアメリカ中心主義だった。 アメリカとの関係は何よりも大事である。しかし、他の二つの原則も重要である。現在、そのままで通用するわけではないが、かつての外交三原則を現代に読み替える努力が必要である。そして、途上国から信頼され、国連でも活躍する日本は、長期的にはアメリカのパートナーとして、より大きな役割を果たせるだろう。 もちろん、このような外交を打ち出すには、日本経済の復興が大前提である。しかし、コロナとウクライナという世界史的な危機が起こっているなかで、日本が果たせる役割は実に大きい。これを日本の歴史的責任と言ってもあえて過言ではないと考える。 ※本記事は、北岡伸一『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)に基づいて作成したものです。
北岡伸一(きたおか・しんいち) 1948年、奈良県生まれ。東京大学名誉教授。国際協力機構(JICA)特別顧問。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連大使(国連代表部次席代表)、国際大学学長、JICA理事長等を歴任。2011年、紫綬褒章受章。著書に『清沢洌 日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党 政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『国連の政治力学 日本はどこにいるのか』『外交的思考』『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』『明治維新の意味』など。 デイリー新潮編集部
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