巨人で好発進「左ウチワですよ」 気持ち緩んで状況一変…引退決意「もうボコボコ」
押し出し四球で「もう終わったな」、長嶋監督に報告すると「就職の方はいいな」
引退を覚悟した瞬間は4月29日の中日戦(ナゴヤドーム)。5番手での7回1死満塁で、代打の愛甲猛内野手に押し出し四球を与えた。「まず押し出しなんかしない自分が……。『あー、こりゃもう終わったな』と。もうマウンドに行くのが怖くなっていましたね」。 ラストシーズンも後半。長嶋監督に報告に赴いた。監督室をノックする。「おっ、どうしたんだ?」と指揮官。神妙な表情で「僕、今季限りで引退しようと思います」と切り出した。すると「おー、そうか」。続けて「金石君はいろんな人を知っているから、じゃあ就職の方はいいな」。金石氏は内心「おいおい、ちょっと待って下さいよ。コーチとかの打診は頂けないのかな?」と考えたそうだが、言える訳がない。「『ハイ、わかりました。お世話になりました』で終わりました(笑)」。 金石氏は引退後の2000年、元バドミントン五輪代表選手の陣内貴美子さんと結婚した。その挙式で、宴もたけなわ。挨拶に相応しいのは、プロ野球最多400勝投手の伯父・金田正一氏(元ロッテ監督)をおいて他にいない。ところが、明朗快活な伯父の様子がいつもとは違う。観念したように登壇した。 「こんなに大勢の人に祝ってもらって、ありがとう」。そして「これを妹に見せてやりたかった……。春子が生きていたら……」。 金石氏の母で、正一氏の妹・春子さんは、金石氏の小学生時代に癌で早世していた。「伯父さんは『絶対に泣くから、ワシにスピーチをさせるな』って仰ってたんですけどね。周囲のみんなに押されて、話をしてくれました。勝負事には強い人なのですが、感情には弱い。凄く家族思いでしたから」。 金石氏は野球解説者と並行し、都内で寿司とお好み焼きの店舗を経営している。キャスターも務める貴美子さん共々多忙ながら、夫妻は仕事が済めば必ず接客に訪れる。人との触れ合いを何よりも大切にする金田ファミリーの系譜は受け継がれている。 “カネやん”の愛称で親しまれた伯父は、2019年に亡くなった。 「もう『感謝』『ありがとうございました』の言葉しかないですよ。少年時代のキャッチボールをきっかけに野球をやらせて頂いた。高校ではPL、プロではカープに入れて頂きました。金田正一なくして今の僕はないのです」
西村大輔 / Taisuke Nishimura