久保建英と「やりたいことは一致する」日本代表、鈴木唯人に託されたパリ五輪世代の底上げ。「他の選手も…」【コラム】
日本代表は6日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選 兼 AFCアジアカップサウジアラビア2027予選、グループリーグB組第5節でミャンマー代表と対戦する。この試合で注目されるのは、鈴木唯人のA代表デビューだ。パリ五輪世代屈指の男に託されたこととは。(取材・文:元川悦子【ミャンマー】) 【画像】日本代表、ミャンマー代表戦の予想フォーメーションはこちら
●攻撃的な3バックを試す機会に? 2026年北中米ワールドカップ(W杯)・アジア最終予選進出が決まっている日本代表にとって、6月シリーズは重要な底上げの場。その一発目のミャンマー戦が今夜、ヤンゴンのトゥウンナスタジアムで行われる。 3日に千葉・幕張で初日練習を消化した彼らは4日に現地入り。2日間のトレーニングを経て本番に挑むことになるが、現地は高温多湿の気候で、時折、凄まじいゲリラ雷雨が訪れる。前日の5日も夕方の練習前の2時間ほど、前が見えないほどの豪雨が降り、ピッチは水を吸って重くなっていたはずだ。 「確かに湿気はありますね。暑さはありましたけど、今日は晴れてなかったんでまだマシだった。水たまり?全然そんなんじゃないですよ」とキャプテン・遠藤航(リバプール)は気に留めていない様子だったが、当日の環境は未知数だ。 2019年9月の2022年カタールW杯2次予選の時も日本は苦戦を強いられ、2-0で勝利するのが精一杯だった。 「ミャンマーの選手たちが非常にアグレッシブに粘り強くハードワークしてきたので、我々はアウェイで戦う難しさを経験した」と森保一監督も神妙な面持ちでコメント。今回も簡単な試合にならないだろう。 そういう中でこそ、新たなチャレンジをする絶好の機会。これまでの日本代表は4-2-3-1をベースに4-1-4-1(4-3-3)、3-4-2-1などの布陣で戦ってきたが、3バックは守備固めを目的とすることが多かった。 しかしながら、今回は4バックと3バックを可変させながら、3バックの時もより攻撃的に挑むスタイルを目指すという。カタールW杯・ドイツ戦終盤に3バックとアンカー遠藤の4枚で守り、残り6枚が攻めに出たような形を確立させ、最終予選の攻め込むオプションにしたいと考えている様子。それがスムーズに行くかどうかが今回の大きな見どころになりそうだ。 ●「『体の線が細い』とか『フィジカル的に弱い』とかいろんな評価があったが…」 こうした中、1つ注目されるのが、新戦力・鈴木唯人(ブレンビー)の扱い。森保監督は前日会見で「起用するなら途中からになる」と発言。ミャンマー戦でのA代表デビューが濃厚と言える状況だ。しかも、出る時は久保建英(レアル・ソシエダ)と2シャドーで並ぶ確率が大。それは3日の練習でもテストされていた形である。 「2人は攻撃的なので、もし2人が組んだ場合は日本の攻撃をけん引し、相手にとって圧力になる攻撃を見せてくれると期待している」と指揮官も前向きに語っており、パリ五輪世代コンビの連係連動が大いに注目される。 鈴木本人も「イメージとしては、たぶん(久保とは)お互いやりたいことは一致すると思う。試合や練習があまりできていないので、いろんな選手とコミュニケーションを取りながら合わせられたらいい」と久保含めたアタッカー陣と感覚や特徴を意欲的にすり合わせていく構え。そこで今季公式戦11得点7アシストの底力をいかんなく発揮し、日本を勝たせるゴールを奪ってくれれば、申し分ないA代表スタートになるはずだ。 初めて森保ジャパンの候補となった2022年1月の国内組合宿参戦から2年半。鈴木は清水エスパルスからストラスブール、ブレンビーと所属先を変え、異なるサッカー観に触れたのは間違いない。その中で紆余曲折を強いられながらも、プレーの幅を広げ、適応力や柔軟性に磨きをかけてきたのだ。 「ストラスブール時代は『体の線が細い』とか『フィジカル的に弱い』とかいろんな評価があったとは思いますけど、僕は日本人なんで仕方のないこと。『だからダメなんだ』と言っていても何も始まらない。大事なのはそのマイナスイメージを覆せるかどうか。僕はそう考えて、ずっと自分に矢印を向けてやってきました」と昨夏、清水に一時的に戻った際、彼は欧州で生き抜くうえでの覚悟と決意を改めて口にした。 「次ダメなら後がない」というくらいの強い危機感を抱いて、鈴木はデンマークに赴いた。移籍当初はなかなか自分の特徴を周りに理解してもらえずに苦しんだが、ウインターブレイク明けからは徐々に自分らしさを発揮できるようになったという。 ●「僕ができることを示せば…」 「もともと自分のことを分かってくれた選手はいたんですけど、目に見える形が残せてきて、チームメートからの信頼も得られたんで、そういうのが結果につながったと思います」と鈴木は自信をのぞかせる。多少なりとも時間はかかったものの、充実のシーズンを過ごした今がA代表デビューに最も相応しいタイミングに違いない。 「試合に出たら、目に見える結果が一番のアピールになると思います。その他にも自分のドリブルなり、アイデアなり、攻撃でうまく起点になり続けて、存在感を残せる感じになればいいかなと。自分たちがボールを持てる時間帯が多いと思うので、自分がうまく攻撃を回せて、みんなで勝ち切れるように戦いたいですね」と本人は限定的なプレー時間の中でも自ら意欲的にアクションを起こしていくつもりだ。 そういった前向きさとアグレッシブさは同い年の久保と通じるところがある。2人でともにパリ五輪世代の底上げを図れれば、森保ジャパンの若返りの布石も打てる。そういう意味でも鈴木に託されるものは少なくないのだ。 「A代表昇格は僕だけじゃなく、パリ五輪世代の他の選手も目指していること。今回、自分はチャンスをもらえたんで、僕ができることを示せば、向こう(アメリカ遠征中)の選手たちも自信を持って取り組める。自分がいいきっかけになれればいいかなと思います」 こう語気を強めたように、鈴木は自らがパリ世代の急先鋒になろうとしている。確かに久保に続くアタッカーが風穴を空けなければ、流れは変わらない。森保ジャパンがいつまでも東京五輪世代中心という状況は先々を考えると不安も拭えない。やはりここで彼ら若手が凄まじい勢いで突き上げていくことが必要不可欠だ。 ミャンマー戦で何分時間が与えられるか分からないが、22歳の若武者の一挙手一投足は絶対に見逃せない。多くの人々にいい意味での衝撃を与えてくれることを願ってやまない。 (取材・文:元川悦子【ミャンマー】)
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