“子どもがいなくなったら地球はおしまいです”中川李枝子さんの言葉に込められた想い
〈中川李枝子さんに初めて会ったときの思い出〉 から続く 中川李枝子さん著『 本・子ども・絵本 』には、作家の小川洋子さんが解説を寄稿されています。自著『 妊娠カレンダー 』で芥川賞を受賞したとき、小川さんは子育ての真っ最中。『ぐりとぐら』をお子さんが小さい頃に読んであげたこともあり、親子で中川さんの絵本に親しまれてきた小川さんが、本書の魅力を紐解きます。文庫の解説「宇宙的肯定」を特別公開。 【写真】この記事の写真を見る(5枚) ★★★
大人たちもみんな、「子ども」だった
この一冊には、実にさまざまな子どもたちの姿が映し出されています。「とんでもない。まんいんです」と声をはりあげて毛布の中で身を寄せあう子たち。近視防止のため、自転車で家の周囲をぐるぐる走る子。絵本に出てくる森の家の扉を、そっと開けてみる子。「おみそ」扱いでも機嫌よく絵本の輪に加わって、お兄さんお姉さんに褒められる赤ん坊。美術書に出てくる泰西名画の文字から、ハタ画伯に興味を抱く少女。『ふたりのロッテ』をうばいあって読むきょうだい。不眠症のお父さんのため、枕元でお話を語って聞かせてあげる娘さん……。 ページのあちこちから、元気いっぱいの笑い声が聞こえてきそうです。自分だけの世界の秘密を発見して見開かれた、小さな瞳の輝きが、一行一行を照らしているかのようです。ページをめくってゆくうち、そうした子どもたちの中に、遠い日の自分を発見することになります。私も彼らの仲間だったと気づきます。この本を読めば誰でも、かけがえのない子どもの自分と、再会できるのです。
ただ、子どもがいる。それだけで尊いのです
何と心弾む再会でしょうか。とうに忘れたと思い込んでいたあれやこれやが、次々とよみがえってきます。土手を転がり下りながらかいだ、シロツメクサのにおい。お向かいの鉄工所のおじさんたちが手にしていた、鉄のお面へのあこがれ。図書室で借りた本を一刻も早く読もうと、わき目もふらず走って帰る私の背中で、カタカタ鳴っていたランドセルの音。それら記憶の底に潜んでいたものたちが、中川さんの言葉でそっとすくい上げられ、心の湖の水面まで浮上してきました。久しぶりに思い出してみると、何一つ損なわれることなく、あまりにも生き生きとしているので、新鮮な驚きを覚えるほどです。