澤村精四郎の劇中口上に感動 一般家庭出身の“星”になれ!…【大島幸久の伝統芸能】
◆歌舞伎座「十二月大歌舞伎」(26日千秋楽) 澤村精四郎(きよしろう、46)という清心な俳優名が復活した。師匠の藤十郎が若い頃に名乗った前名なのだが、弟子の國矢が芸養子に入り2代目として継承したのである。少々驚いたものの誠にめでたい。 一般家庭から歌舞伎界に飛び込んだ國矢は二枚目立役よし、悪役よし、踊りよし。あちこちから声がかかり、ひそかに注目していたから新・精四郎に期待するのは大だ。 第1部が襲名披露狂言「あらしのよるに」。演じるのは狼ばりい。長(おさ)の中村獅童を襲う仇(かたき)役だ。客席通路から舞台に駆け上がり両手を大きく広げた大見得(みえ)が勇ましくていい。 2部では「加賀鳶」の数珠玉房吉。序幕で花道12人と並んで名乗りを上げるツラネは6番手。「黙っていられぬ生まれつき」といったセリフが威勢良かった。 ただし、一番感動したのは1部の劇中口上。獅童と2人だけで正座・平伏し、子役で舞台に立った10歳の時に師匠と出会い16歳で入門、2年前に獅童が松竹に自分の幹部昇進を進言してくれたといった秘話を語る姿は感謝の念にあふれ、「なお一層、精進したい」のあいさつは涙声にさえ聞こえた。 紀伊国屋の御曹司の師匠・藤十郎は近代的な美貌(びぼう)の女形だ。病を得てリハビリ中だが、励みになるだろう。その兄・宗十郎は平成13年に他界。女形のその美しさは谷崎潤一郎、志賀直哉がホレ込んだほどだ。精四郎には師匠のような爽やかな、あるいは独自の骨太な個性を生かした立役、さらに古風な紀伊国屋の家の芸「高賀十種」を復活してほしい。そして一般家庭出身の“星”になれ!(演劇ジャーナリスト)
報知新聞社