準決勝 明石商、粘りに拍手 強烈な印象残し /兵庫
<センバツ2019> 第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)第10日の2日、3年ぶり2回目出場の明石商は準決勝で強豪の東邦(愛知)と対戦。県勢11回目の決勝進出をかけて全力を尽くしたが、健闘及ばず4-2で敗れた。今大会4試合目の登板となったエースの中森俊介投手(2年)は七回に3ランを浴びたものの、最後まで低めを突く丁寧な投球を貫いた。打線も八回に安藤碧右翼手(3年)が2ランを放ち、一時は1点差に追いつく粘りを見せた。悲願の「頂点」にこそ手が届かなかったが、前回出場時の8強を越えて4強に食い込み、全国の高校野球ファンに強烈な印象を残した明石商ナイン。スタンドからは「よく頑張った」と声が飛び、大きな拍手が送られた。【黒詰拓也、望月靖祥、浜本年弘】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 明石商 000000020=2 東邦 00000031×=4 今大会4試合目にして初めて三塁側アルプススタンドに陣取った明石商応援団。真冬を思わせる冷たい風と時折降る雨に負けじと、試合開始と同時に熱い応援を展開した。 先発は頼れる2年生エースの中森投手。父博さん(40)が「多少の疲れはあるだろうが、バックを信じ、制球良く投げてほしい」と期待した。その通りに早いテンポで140キロを超える直球と切れの良い変化球を投げ込み、五回まで二塁を踏ませなかった。 エースの頑張りに応えたい打線だったが、あと1本が出ない。三、四、五回と連続して得点圏に走者を進めながらも、スコアボードには「0」が並んだ。ジリジリする展開が続く中、重宮涼主将(3年)の弟で中学3年の悠さん(14)は「甲子園でプレーしている兄がうらやましい。自分もいつかこのグラウンドに立ちたい」と語り、兄の姿を見つめていた。 試合が動いたのは七回裏。中森投手が四死球で一、二塁に走者を出した後、中越えに3ランを浴びた。アルプスは静まりかえったが、すぐに「まだ3点だ」「追い付けるぞ」とナインを励ます声が上がった。 直後の八回表。2死から重宮主将が右中間に二塁打を放つと、続く4番の安藤碧右翼手(3年)が右中間のスタンドに打球を放り込んだ。点差はわずかに1。アルプスの熱気は最高潮に達した。 九回表2死。スタンドから「ホームランだ」との声を受けて中森投手が打席に立ったが、フルカウントから高めの球を空振りしてゲームセット。一瞬の静寂の後、スタンドからは「いい試合だったぞ」と声が上がった。最後まで声をからした野球部員の茂木郁海さん(3年)は「夏にまた帰ってくる」と力強く語った。 ◇夏もこの場所に ○…副主将の宮下匡雅(おうが)選手(3年)が8番左翼で先発し、今大会初出場を果たした。普段は一塁コーチとして仲間を支えるが、本来は巧打が持ち味だ。この日は三回の第1打席で「配球を読んで狙っていた」という内角直球を左前にはじき返し、チーム初安打を記録。「コーチの時より試合展開が早く感じた。夏も選手として、ここに立ちたい」と語った。 ◇頑張ったと笑顔 ○…明石商が3年前に初出場した当時の校長が、三塁側アルプススタンドで声援を送った。明石市立大久保北コミュニティ・センター所長の伊藤雅弘さん(63)。3年前は8強入りを見守った直後に定年退職を迎えただけに、野球部への思い入れは強い。今大会は全試合に駆けつけており、この日もメガホンを手に声を張り上げた。チームは敗れたが「がっぷり四つの戦いだった。選手はよく頑張った」と最後は笑顔だった。 ◇どよめきと歓声 ○…明石駅前のあかし市民広場であったパブリックビューイング(PV)には、市民ら約200人が詰めかけた。七回裏、東邦の3点本塁打に「あーっ」とどよめきが起きたが、八回表の安藤碧選手の2点本塁打に、ひときわ大きな拍手と歓声が上がった。西宮市の藤尾憲一郎さん(72)は、小学生の孫ら家族4人で明石を観光中、急きょ来場した。「悔しいが、緊張感のある試合だった。公立の明石商の頑張りに期待したい」と語った。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇4番の仕事できた 安藤碧右翼手(3年) これぞ4番のパワーだ。3点を先制された直後の八回表2死二塁。初球の直球を鋭く振り抜くと、打球は少し詰まりながらも右中間で最も深い外野席に飛び込んだ。これが公式戦初本塁打。負けはしたものの、一時はチームに勢いをもたらして「4番の仕事はできた」と振り返った。 直前の打席は直球で三振。「また真っすぐでくる」との読みが当たった。今大会は初戦こそ甲子園の雰囲気に飲まれて力を発揮できなかったが、2回戦で三塁打を放って落ち着いた。準々決勝では安打を放ち、この日も四回に二塁打。これで足かけ3試合での「サイクル安打」達成だ。 昨秋の近畿大会では好機に一本が出ず「チームにブレーキを掛けてしまった」と反省。冬は心身の強化を心掛けて自らを追い込んだ。体重は冬を越えて5キロ増え、打球のスピードも増した。今年に入って打撃フォームも修正。大会開幕前の練習試合から調子が上がっていた。 甲子園の砂は持って帰らない。夏にまた来るからだ。「こんなにも大勢の観客の前で野球ができて、甲子園に出たい気持ちが一層強まった」と語る背番号9。次に甲子園の舞台に立つ時は、一層パワーアップした打撃を見せてくれるはずだ。【黒詰拓也】 〔神戸版〕