あなたが思い浮かべる“初恋”ソングは?
10月30日は、1896(明治29)年のこの日に発行されたロマン主義の月刊文芸雑誌『文学界』(文藝春秋の発行の月刊文芸雑誌『文學界』とは異なる)の46号の「こひぐさ」の一編にて、文豪の島崎藤村が「まだあげ初めし前髪の…」の一節で知られる初恋の詩を発表したことを記念して、島崎藤村ゆかりの宿である長野県小諸市の中棚荘が「初恋の日」を制定しています。 “恋”というのは文学の世界と同様に、音楽の世界でも普遍かつ永遠のテーマとして、数多の楽曲で歌われてきています。その「初恋の日」にちなんで、タイトルに「初恋」を冠している楽曲をいくつか紹介していきます。 はじめに、島崎藤村の初恋の詩が用いられた「初恋」を挙げておきましょう。「まだあげそめし前髪の…」から始まる歌詞に若松甲が曲をつけた「初恋」は、1963年に小林旭がシングル「男の道」のB面で発表。その後、1971年には舟木一夫がシングルでカヴァーしています。文語で書かれた詩や散文は美しい歌が生まれやすいからなのか、作曲家としての意欲がわいてくるのか、島崎藤村のこの詩に曲をつけた楽曲はいくつか存在し、「夢芝居」を梅沢富美男へ提供した小椋佳が作曲し、梅沢が歌う「初恋」などがあります。ちなみに、「砂山の砂…」ではじまる石川啄木の歌集『一握の砂』の歌に越谷達之助が曲をつけた「初恋」は、菅原洋一や森山良子、安田祥子らが歌唱しています。 多くのアーティストのカヴァーを生んでいるのが、村下孝蔵の「初恋」です。「好きだよと言えずに 初恋は~」の甘酸っぱくも切ないメロディが印象的なこの曲は、1983年に村下の5枚目のシングルとしてリリース。シングル週間3位、年間14位を記録し、村下最大のヒット曲となりました。当時のアイドル“花の82年組”にも数えられた三田寛子をイメージして、放課後の校庭を描いた歌詞に書き直したとのことです。村下のオリジナルの直後に、三田も5枚目のシングルとして「初恋」をリリース。そのほか、Acid Black Cherry、杏里、石井竜也、クリス・ハート、GOING UNDER GROUND、沢田知可子、島谷ひとみ、玉置浩二、つるの剛士、Ms.OOJA、May J.、百田夏菜子、吉幾三、吉岡聖恵などが「初恋」のカヴァーを発表しています。 旧漢字で表記されたのが、斉藤由貴の「初戀」です。デビュー・シングルの「卒業」と同じく、作詞・松本隆、作曲・筒美京平というゴールデンコンビが手掛け、1985年に斉藤の3枚目のシングルとしてリリース。チャート4位のヒットとなりました。 2001年にはaikoとTUBEがぞれぞれ「初恋」をシングルとして発表。aikoの「初恋」は前作「ボーイフレンド」に次ぐ累計セールスを記録し、プラチナディスクに認定。TUBEの「初恋」は日本テレビ系『劇空間プロ野球2001』のイメージ・ソングにも起用されました。 このほか、イルカ、WEST.、大澤誉志幸、岡本真夜、奥華子、さだまさし、Chara、中島美嘉、秦基博、浜田省吾、Base Ball Bear、松浦亜弥、松山千春、森山直太朗、矢井田瞳などが、それぞれに自身の「初恋」を発表。福山雅治は2009年12月に「はつ恋」のタイトルでシングルをリリース。同曲は2009年から翌年にかけてヒットし、オリコンチャート初登場1位、2000年代最後の月間シングルチャートで1位を獲得した作品となりました。 2018年には宇多田ヒカルが「初恋」を配信リリース。7枚目のアルバム『初恋』(写真)の表題曲で、杉咲花主演のドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』のイメージ・ソングとして書き下ろされました。“初恋”というタイトルは、宇多田が1999年に発表した1枚目のアルバム『First Love』の表題曲で、3枚目のシングルとしてリリースされた「First Love」を想起させるということでも注目されました。2022年には両曲にインスパイアされたストーリーを綴った満島ひかりと佐藤健が主演のNetflixオリジナル・ドラマ『First Love 初恋』が全世界同時配信されたことも話題となりました。 なお、村下の「初恋」同様に、宇多田「First Love」のカヴァーも枚挙にいとまがなく、ボーイズ・II・メンやスコット・マーフィー、ジェイク・シマブクロ、エリック・マーティン、元東方神起、JYJのジェジュンほか、海外アーティストもこぞってカヴァー曲を発表。来日公演のステージで「First Love」のカヴァーを披露する海外アーティストも少なくなく、日本を代表する“初恋”ソングとして高い支持を得ています。 まだまだ数多く存在する初恋ソング。「初恋の日」に、甘酸っぱい初恋を思い出しながら、あなたならではの“初恋”ソングを聴いてみるのはいかがでしょうか。