「40年前の誕生日プレートを母が実家の冷蔵庫に」『ジョブチューン』で人気のパティシエ・安食雄二 やんちゃだった幼少期と母の涙
「ら・利す帆ん」に入社した年、母の誕生日に初めてバースデーケーキを作りました。見よう見まねでスポンジを焼いて、ナッぺ(ケーキにクリームを塗ること)して、下手な字でクッキーに『お誕生日おめでとう お母さん』って書いて。休日に「バースデーケーキ作ってきたよ!」と持っていったら、箱を開けたとたん、もう大号泣。「うわーん!」って、まるで漫画みたいな泣き方です。 ── よほどうれしかったのでしょうね。 安食さん:心を込めて作ったケーキで、こんなに人を喜ばせることができるんだと、そこで初めて知りました。困らせて泣かせることはあったけど、うれしくても人って涙を流すものなんだと、自分の仕事はこういうことなんだって、気づかされた瞬間でした。そのときの誕生日プレートを母がいまだに取っていて、もう40年近く前のものですけど、ラップに包まれ、実家の冷凍庫に眠っています。
それからバースデーケーキにこだわりはじめて、何十年と作り続けてきました。独自のスポンジの理論を確立して、「安食さんのバースデーケーキは間違いない」と言ってもらえるようになった。週末には多いときで200、300台のバースデーケーキが出ます。うちはバースデーケーキ屋なのかな、というくらい(笑)。あの経験はぼくのベース。バースデーケーキを大事にしようという想いがずっと変わらずぼくのなかにある。注文をいただくと、いまもぼくが一枚一枚心を込めて、プレートを書いています。
PROFILE 安食雄二さん あじき・ゆうじ。1967年生まれ、東京都東村山市出身。武蔵野調理師専門学校卒業後、「ら・利す帆ん洋菓子店」入店。「鴫立亭」、横浜ロイヤルパークホテル オープニング製菓主任、「モンサンクレール」オープニングスーシェフを経て、「デフェール」シェフパティシエを務める。1996年グランプリインターナショナル・マンダリンナポレオンコンクール(世界大会)日本人初優勝。2010年、北山田に「SWEETS garden YUJI AJIKI」をオープン。
取材・文/小野寺悦子 画像提供/SWEETS garden YUJI AJIKI
小野寺悦子