自民党大敗の裏で起きていた変化 高市早苗氏の街頭演説で掲げられた横断幕『軍拡よりも生活』に支持者は…【ヤジ排除裁判のその後】
山口さんは、2019年に一緒に排除された富永恵子さんらと計5人で最前列に陣取っていた。「政治を変えよう」「憲法改悪反対」「さよならマッチョ政治」と書かれたプラカードや横断幕を手に、静かにアピールしていた。中村氏の街頭演説が始まると、山口さんらの前に「自由民主党青年局」というのぼりを持った男性2人が立った。 「私たちの姿を候補者に見せたくなかったんでしょうか」と山口さん。 だが、街頭演説の現場は2019年とは大きく変わった。手荷物検査で、山口さんらはカバンのなかにあるプラカードをチェックされたが、没収されたり規制されたりすることはなかった。もちろん最前列で掲げても排除されることはなかった。当たり前と言えば当たり前だが、ようやく正常に戻ったようだ。ヤジ排除訴訟での勝訴判決の効力がここでも生きていた。
異なる意見を知り、対話が生まれ、変化が起きる…そして調和が成立する
演説が終わった後、山口さんと富永さんの声は少しだけ明るかった。 「中村氏が北海道新幹線延伸について話していたが、私が隣にいた年配の男性に『新幹線は通らないですよね』というと、『そうですよね』と答えた。自民党支持者でも、変だと思っている」富永恵子さん 「私たちだけでは『軍拡よりも生活』という横断幕を広げられなくて、隣にいた自民党支持者と思われる男性が端を持ってくれた」山口たかさん 街頭演説は、政治家の話を聴衆が一方的に黙って聞く場ではない。「あなたの政策に反対の人間もいる」と声を上げ、政治家に伝えられる貴重な場でもある。そして開かれた自由な場だからこそ、さまざまな考えの市民が集う。自分と異なる考えを持つ人と出会い、多様な意見の存在を知る。そして対話が生まれる。変化が起きる。調和が成立する。それが民主主義のダイナミズムといえる。 要人警護の名のもとに、街頭演説の会場がますます厳重になり、支持者しか集まらなくなる。一つの意見に染まった世界に、多様性や自由は生まれにくい。だからこそ、多勢に無勢であっても、声を上げ続ける山口さんらの行動が、この時代に大切な意味を持つ。 「私たちの不断の努力で行使していかないと権利は失われてしまう。疲れますけどね(笑)。やり続けなくてはいけない」山口たかさん 奪われそうになった権利を取り戻した若者がいる。その権利を守ろうと行動する人たちがいる。どうか分かってほしい。私たちが空気や水のように当たり前のように享受している権利は、誰かが戦った結果であることを。たとえヤジを迷惑だと思っている人にも、その権利の光は注がれることを。 ◇HBC北海道放送 山﨑裕侍
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