“ど忘れ”は良いチャンス!? 固有名詞を記憶するのが苦手…悩む相談者に茂木健一郎が脳科学の視点でアドバイス
脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。 今回の配信では「固有名詞の覚え方」に関する質問に答えました。
<リスナーからの相談>
私の悩みは「固有名詞を記憶に留めるのが苦手なこと」です。通院時に医師からの話が半分くらいしか残りません。単なる物忘れなのでしょうか。それとも、もっと脳に意識させることが大切でしょうか。 自頭が悪いので仕方ありませんが、具体的な方法が少しでもあれば教えてください。よろしくお願いします。
<茂木の回答>
まず、地頭が悪いなんてことは絶対にないですよ。文章を読んでいる限り、とてもいろいろ考えていらっしゃるから、あまりそういうふうに思い込まないほうがいいと思います。 固有名詞を記憶に留めるのが苦手ということなのですが、固有名詞ならまだ大丈夫です。 ご高齢になって加齢していくと、たとえば認知症があるのでは?などと心配されていると思うのですが、固有名詞はもともと手がかりが少ないのです。脳の側頭連合野(そくとうれんごうや)に記憶を留めるという意味において、固有名詞は根拠がないのです。 どういうことかと言いますと、「この人の名前は必ずしもこの名前でなければいけない」ということはないわけなので、忘れがちなのです。なので、逆に言うと固有名詞を覚えようと思ったら、いろいろな手がかりを使うことがいいのです。 たとえば、初対面で「鈴木さん」という人に会ったとします。自分が過去に知っている鈴木さんと結びつけて連想し、「あの鈴木さんと同じ鈴木さんだな」と覚えるのです。 あとは、電話番号を覚えるといった「語呂合わせ」で覚えることは、脳のなかで手がかりを増やします。連想記憶を束にして覚えやすくする。これって実は、世界記憶力選手権のチャンピオンなんかもやっている手法なのです。 ですので、最近、固有名詞を含めた記憶が少し心配だと思っているのだとしたら、いろんなものと結びつけて、手がかりを増やして覚える。それが1つのやり方かなと思います。 そして、お医者さんからの話が半分ぐらいしか残りませんということですが、半分残ったらいいのではないのでしょうか。一字一句覚えることは、なかなか難しいですからね。むしろ、脳の仕組みから言うと、「要するにどういうことなのか」を自分なりに受けとめて覚えていることのほうが大事だと言われています。一字一句覚えるのが得意な方もいらっしゃいますが、必ずしもみんながやる必要はないことかなと思います。 また、“ど忘れ”は、実はとてもいいチャンスです。記憶を思い出そうとしてもなかなか出てこない場合、諦めずに一生懸命思い出す努力をしていただくと、側頭連合野、すなわち脳の横のほうにある記憶回路から記憶が引き出されて、その回路が強くなります。なので、“ど忘れはチャンス”だと思っていただければと思います。 そして実は、記憶と感情は深く結びついています。記憶の中枢と言われている海馬と、感情の中枢と言われている扁桃体は深く結びついています。喜怒哀楽、生きていくなかで悲しいこと嬉しいこと、そういうことがあったときの出来事というのは、強く記憶されることがあるので、毎日の生活のなかで感情を豊かにするのも記憶を強める1つのやり方かなと思います。 覚えられるようにしたほうが脳のアンチエイジングという意味においてはいいこともあるので、ストレスのない範囲で毎日心がけていただけたらなと思います。 (「茂木健一郎のポジティブ脳教室」配信より)