「認知症の人が安心して暮らせるように」 応援大使の元市議が講演
元鹿児島市議会議長で認知症当事者の長田徳太郎(おさだとくたろう)さん(76)が今秋、鹿児島県の「認知症応援大使」第1号に任命された。このほど、出身地の同県南九州市で妻祐里華さん(60)と共に講演し、約300人を前に「同じ症状の人が、安心して暮らせるようになってほしい」と訴えた。 祐里華さんによると、長田さんは市議をしていた5年ほど前に症状が表れた。小銭入れを四つも五つも持ってカバンの中がパンパンになったり、約束した予定を忘れてしまったりしたため、病院を受診。すると、初期のレビー小体型認知症と診断された。 当時は「晴れ時々曇り」のような状態だったという長田さん。症状が出る「曇り」が少なかったこともあり、何とか議員の仕事ができると考えた。しかし、議会の一般質問で書面を読み飛ばしたり、昼休みでもないのに外食に出掛けたりする自分がいた。自覚のないまま夜間に動き回ることもあった。 症状と責務の狭間で苦しむ長田さんに祐里華さんは「キリのいいところで」と水を向けた。「ありがとう。ここ2年間ずっと不安だったが決心がついた。悔いはない」。長田さんは2021年、9期目の途中で市議を辞めた。 以降、症状は少しずつ進行し、服を前後ろ逆に着たこともある。それでも祐里華さんが笑い飛ばして暮らしを明るく照らす。認知症デイサービスなども手掛ける社会福祉法人理事長の祐里華さん。「抱え込むと家族も本人も疲弊する。認知症を隠さないことが偏見のない世の中につながり、生きやすくなる」と信じる。 長田さんは大使として講演などを続け、今後も認知症への理解を広める活動に取り組む。人前で話をするとつい泣いてしまう長田さん。この日の講演でも涙を見せながら聴衆に自身の体験を語った。「家族や周囲には『ありがとう』という感謝しかない」 ◇ 当事者が務める応援大使は、熊本県では2023年2月に3人を任命した「くまもとオレンジ大使」がある。宮崎県はまだ制度化していないが、候補者を探しているという。【梅山崇】