多摩動物公園は「動物ファースト」…けが防止や熱中症対策「動物が幸せだと楽しく見られるはず」
東京都日野市の多摩動物公園で、動物たちがより安全で快適に暮らせるようにする「動物ファースト主義」の取り組みが進められている。動物たちの負傷や病気を防ぐことなどを目的に、園で飼育のために使っている備品を改良するのが主で、主導する同園飼育展示課調整係の大田孝治さん(66)は「動物が幸せだと来園者も楽しく見られるはず」と話している。 【写真】大田さんが作ったタヌキのえさ箱。熱がこもらないよう通気口が設けられている
動物ファースト主義の取り組みは、大田さんが同園に着任した2023年4月から本格的に始まった。同様の言葉はほかの動物園でも用いられているが、大田さんは「動物をクライアントと捉え、その気持ちや視線に寄り添うこと」と定義。飼育担当者から相談が寄せられるたび、細かな配慮と工夫を加えた備品を手ずから作り上げてきた。
同園のタヌキはこれまで、密閉されたえさ箱の中に入ってえさを食べていた。ただ、「夏場の暑さで熱中症にかかる恐れがある」と飼育担当者から相談があり、大田さんは網付きの通気口を設置。さらに、えさを狙うカラスの侵入を防ぐため、えさ箱の出入り口の位置を低くする工夫も凝らした。
一方、タイリクオオカミが休息する小屋を作る際には、オオカミが木材をかじる可能性を考慮。口をけがしないよう、くぎを一切使わずに小屋を作り上げた。
大学卒業後に国際協力機構(JICA)に30年以上勤務し、アフリカで学校や道路の整備などに尽力した大田さん。日曜大工が長年の趣味で、定年退職後には職業訓練校に通い、木工の技術を磨いていた。そんな時、多摩動物公園の備品を作る技術職の求人を知り、「今度は動物を支えてみたい」と就職を決めたという。
畜産を学んでいた学生の頃、鶏小屋を荒らすカラスに対応した時に、カラスは低い場所をくぐるのが苦手だと知り、タヌキのえさ箱づくりにも生かしたという。木工技術も存分に発揮しており、大田さんは「今までの様々な人生経験がいま役立っている」と話す。
動物ファースト主義を掲げる大田さんの仕事ぶりに、上司の寺田光宏・飼育展示課調整係長は「飼育担当者からは『とにかく相談しやすい』と好評で、提案や意見もすぐに取り入れてくれる。動物たちが暮らしやすい環境がどんどん整備されていく」とたたえる。
今後は、鳥類の巣箱などの耐久性を高めるため、素材を合板から杉板に置き換えることも進めたいという。「動物がストレスなく過ごせたら、動きも生き生きしてくるはず。その姿を来園者に楽しんでほしい」。動物たちの暮らしの質をさらに高めようと、大田さんはますます意気盛んだ。