きっかけは1通のメール、英ロイヤルバレエ団の最高位ダンサーになる夢をかなえた金子扶生さん 「ライバルは過去の自分」練習が自信になる【働くって何?】
▽両膝の大けが、頭の中には「辛抱」の二文字 左膝の前十字靱帯が断裂していた。腫れが引いてから手術し、リハビリ生活が始まった。「初めてのことで怖さも特になく、最初のころはポジティブにいこうと思ってリハビリに励んでいたんですけど、歩くこともできない現実に直面して体よりも精神的なつらさの方が大きかった」。 1年かけて舞台に復帰したものの今度は反対側の右膝の靱帯が切れた。左膝の状態も芳しくなく、医師の助言もあり両膝を手術した。「もう一度つらい時期を送らなければいけない」。そんな思いがつらさを増大させた。 病院のベッドからトイレにすら行けず「痛みで頭がおかしくなっていしまいそうになるぐらい」の状態からリハビリ生活がまた始まった。頭は踊る自分を鮮明に覚えているが、体がついていかない。「焦っても何もいいことはない」。思い浮かべたのは「辛抱」の二文字だった。 リハビリの時間は笑顔でいこうと決め、帰宅後に大泣きした。「もう無理かも知れないとつらい思いもしたんですけど、またすっきりして次の日は新しい自分としてのぞんだ。その繰り返しでした」。
懸命なリハビリと周囲の助けを得て復帰し、2018年に「ファーストソリスト」に、2021年に「プリンシパル」に昇格した。逆境を乗り越えられた理由を尋ねると、こう答えた。「私は本当にバレエが好き。好きだからここまでこられたとしか思えない」。 ▽「自分を信じて踊る。自信は練習で手にするもの」 大けがから10年たった2023年にも「ドンキホーテ」でキトリ役を演じた。「体が同じステップをすることをおびえているのが分かるんですけど、どう対処すればいいか分かっている」。「それに向き合い、新しくなった自分が超えないといけないという試練」と覚悟して跳んだ。 金子さんは「私は自分を信じて踊るんですけど練習しないと自分を信じられない。できること、できる限りのことを全てやり、自分を信じて舞台にのぞんでいます」と、プロとしての誇りを示した。ドンキホーテでは、最終盤に連続で回転する見せ場「32回フェッテ」を見事に踊りきり、大歓声が起きたカーテンコールに満面の笑みを浮かべて応えた。