校舎大幅削減の代々木ゼミナールから見える予備校業界の実情とは
3大予備校の一つ代々木ゼミナールが校舎の7割を閉鎖し、センターリサーチや多くの模擬試験を廃止すると伝えられている。バブル時代には多くの浪人生を集め、講師にも巨額の報酬を支払っていた日本一の予備校がなぜ多くの校舎を閉鎖することになったのか。
読み間違えた少子化と大学増加の波
代ゼミは90年代初頭の私大バブル期に全盛期をむかえた予備校だ。代々木ゼミナールの広報企画部によると、校舎を減らしたのは「18歳人口が増えたのに合わせて全国展開してきたが、減ったところでそれに合わせた校舎運営ができなくなったため」だと説明した。校舎を削減することで全国サービスを受験生に提供できなくなり、模試やセンターリサーチの廃止を決定したのだという。 代ゼミの強みは、浪人生に対する優れた講義の提供だ。しかし、それが仇となった。「浪人生の減少が代ゼミのみならず予備校業界全体の不振につながっている。代ゼミは先代の経営者が浪人にこだわり出遅れてしまった」と指摘するのは大学入試に詳しい大学通信の安田賢治氏だ。 安田氏によると、1992年に40万人程度いた浪人生が、現在では5万人に減ってしまった。「少子化と大学の増加などが原因で、浪人する必要がなくなってしまった」というわけだ。現役志向に対応できなかったのが代ゼミのつまずきの原因の一つであり、代ゼミ側も「確かに現役志向の高まりと少子化に伴う浪人生の減少は響いている」と外部環境の影響を認めている。 安田氏は加えて「代ゼミは、理系・国公立人気に伴い『私大文系』イメージのある代ゼミは選ばれなくなってしまった。親や教師に国公立や理系コースもあることがなかなか伝わらなかった」と過去のイメージが現在の衰退を招いたと指摘した。
オンデマンド配信で急成長する東進
変化する外部環境に代ゼミの対応が遅れていたのに対し、現役生を対象にした事業を早くから行っていたのは、東進ハイスクールをはじめ、駿台予備学校や河合塾といった大手予備校だ。特に東進ハイスクールは授業のオンデマンド配信に力を入れている。 河合塾や駿台予備学校はライブ講義中心だが、東進ハイスクールは映像授業を現役生向けのオンデマンドによる個別配信で急成長している。同校は「様々なメディアから急成長の理由を聞かれるが、自分たちで言うのもどうかと思う」とコメントを避けているものの、現在の予備校業界では、講義をオンデマンド配信したり、ライブ講義を実施したりするビジネスが中心になっていることは違いないだろう。 河合塾や駿台予備学校もライブ講義を中心に据えた予備校が合格実績をあげており、この2校は最近になっても校舎を増やし、現役生への対策もぬかりない。また河合塾は子会社で映像配信の現役予備校も展開している。 確かに、代ゼミも有名講師の講義を衛星中継で受講するという印象を多くの人は持っている。しかし、代ゼミの映像授業は学生が予備校に殺到してさばききれなかった時代の名残だ。人気講師を全国に出講させきれなかった時代のソリューションとして衛星中継で授業を配信した。これに対して東進はほとんど対面授業をやっていないという違いがある。
不振の代ゼミはどう手を打つのか
今後、代ゼミはどうするのか? 代ゼミの校舎は堅牢であり、また多くの校舎の立地は駅前の一等地にある。一部ネットメディアでは「不動産業に移行するのか?」などとも書かれているが、代ゼミの広報担当者は「一部では先見の明があると言われているが、それはない。土地や不動産をどうするのかは決まっていない」と話す。 「まだわからないことは多い。講義では高校1年生などに高校3年生や浪人生を教えていた講師を担当させ、一貫したストーリー性ある授業を展開したい。(加盟校に講義をオンデマンド配信する)サテライン予備校の全国展開も考えている」と話した。 (ライター・小林拓矢)