【歴史】実は、狩猟時代のほうが農耕時代より「豊か」だった? 最近の研究で明らかになった、太古の人間の生活
興味深いのは、その後紀元前3500年までの間に主要作物にオオムギなどが加わりはしたものの、この5地域で栽培され始めた作物が今も食され、しかも私たちの摂取カロリーのほとんどが、これらに頼っているということです。 つまり、植物の中で栽培に適したものは非常に少なく、農耕を始めなかった地域は、そこに暮らす人々にその気がなかったからではなく、栽培できる植物がなかったためといえそうです。 こうして限られた人々が農耕を始めたのではなく、限られた植物が農耕を可能にしたのだと知ると、人間と自然の関係をこれまで人間の支配という目で見過ぎていたことに気づきます。
狩猟採集時代には多種多様な植物や動物を食べていたことがわかっており、今私たちが知っている栄養という概念で見たときに理想的といってもよい食生活をしていたようなのです。このときのほうが自然をよく知り、ある意味、豊かな生活をしていたともいえるわけです。 狩猟採集から農耕への移行は、両者が混じり合いながら徐々に農耕文明へと移りました。ここでの課題は「多様性」の消失でしょう。多様性の重要さはさまざまな側面から明らかになっており、農業においてそれが重視されてこなかったことは、頭に止めておきたいことです。
最近の研究から、食物の多様性に限らず、日常生活も狩猟採集時代のほうが「豊か」だったという見方が出てきています。 農耕生活の始まりの頃と比べてのことだけではなく、現在の私たちの暮らし方と比べてもそういえるとする研究者もいます。「豊か」とは、皆が日常を快適に送るという意味です。 ■実は「豊か」だった狩猟採集時代 すでに指摘したように農耕民には栄養失調が見られます。しかも農耕生活では、その年の気候によって主要作物が不作になり、飢えに苦しむ場合が少なくなかったのに対し、狩猟採集の場合は、災害が起きたらその場所から移動すればよかったのです。