アングル:米金融機関が中国事業縮小へ、成長鈍化にトランプ氏復帰が追い打ち
Selena Li Scott Murdoch Kane Wu [香港/シドニー 7日 ロイター] - 中国に進出している米金融機関の多くは次期トランプ政権の下で米中関係がさらに緊迫するとの警戒感から、中国事業を一段と縮小させる構えを見せている。業界幹部やアナリストによると、中国からの撤退検討や、リスクを最小限に抑えるための現地部門分離のほか、中国での事業拡大を停止するといった経営戦略が取られることになりそうだ。 中国本土は新型コロナウイルスのパンデミックが起きる前までの10年間にわたって経済成長が2桁を記録し、米国の投資銀行や資産運用会社にとって有望な市場だった。 その後、中国の成長鈍化や規制強化の影響で米金融機関の中国部門は既に収入が落ち込んでいたが、今度は2度目のトランプ政権発足で米中貿易摩擦という新たなリスクに直面する。 大統領への返り咲きを決めたトランプ氏は中国製品の関税を60%超に引き上げ、中国の最恵国待遇を取り消すなどと主張。また中国への米資本の流入や一部の中国企業と提携する米金融機関に対して厳しい締め付けを行うのではないかとの懸念も浮上している。 シンガポールに拠点を置くコンサルティング会社、カプロンアジアの調査ディレクター、ジョー・ジェリネック氏は、トランプ氏はより強硬な対中政策を取る公算が大きく、米金融機関は中国に関して直面する規制リスクが増大すると見ている。新たな関税や資本規制の導入・強化で業務の点検やコンプライアンス(法令順守)などの問題が重要になるため、米金融機関は中国での事業拡大に消極的になりそうだという。 ジェリネック氏は「中国が扉を閉ざすのではなく、米国企業自体がリスク軽減のために中国での戦略を見直す展開になる可能性が高い」と述べ、その結果として中国からの撤退や投資の先送りが生じそうだと予想した。 中国でライセンスを取得して事業を展開している大手米金融機関の幹部はロイターの取材に、米大統領選前に本社で「リスク管理会議」を数回開いたと明かした。この企業はトランプ氏の勝利を受けて中国事業を「自立した」独立的運営ユニットとすることに注力している。「トランプ氏の返り咲きで中国進出の米金融機関は今後、非常に険しい道のりを歩むことになりそうだ。今や(中国事業の)『脱米国化』が基本方針だ」という。 <戦略の見直し> 米金融機関の一部はすでに中国事業の縮小に動いている。 米調査会社ディールロジックのデータによると、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループの米投資銀上位5行は年初来の中国における投資銀業務の収入が4億5400万ドルとなっている。これは2023年全体の2億7600万ドルよりは多いが、ピークだった20年の16億ドルに遠く及ばない。 バイデン現政権下でも地政学的緊張は続き、いくつかの企業が中国戦略の見直しを迫られた。例えば、米資産運用大手バン・エックは23年に、米中の関係悪化を理由に中国進出計画を撤回。米運用大手バンガードも同じ年に中国での合弁事業から手を引いた。 各種報道や公開資料によると、昨年来に中国拠点の一部もしくは全てを閉鎖した米法律事務所は10社余りに上る。メイヤー・ブラウンは今年、香港オフィスの分離計画を公表。デントンズは昨年に中国本土チームを分社化した。 中国を専門とする調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの副ディレクター、クリストファー・ベドー氏は、米金融機関が足元で重視する問題として、トランプ次期政権による関税とそれに対する中国の対応を挙げた。「米中関係はこの数年で最も不確実という状態に直面する。トランプ政権下では米中関係のほぼあらゆる分野で、予測される結果の幅が格段に広がる」と見ている。 一方、ある米金融機関の中国部門上級幹部は、業界内には外国企業への市場アクセス拡大を続けるという中国政府の方針を利用したい思惑もあると指摘。「交通事故が怖いから仕事に行かないなどということはあり得ない。交通事故は頻繁に起きており、絶対に過剰反応はしたくない」と語り、引き続き中国市場でチャンスをうかがう姿勢を示した。