文楽の竹本織太夫と鶴澤清馗「息の合った演奏を」 対照的な兄弟が念願の共演
世襲ではない人形浄瑠璃文楽では珍しい実の兄弟、竹本織太夫(49)と三味線の鶴澤清馗(43)。これまで舞台ではあまり組むことのなかった2人が6月29日、大阪市中央区の国立文楽劇場で開かれる太夫と三味線だけの「文楽素浄瑠璃の会」で、「卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)・平太郎住家より木遣り音頭の段」を勤める。実力派の中堅太夫として弟の成長を見守ってきた織太夫は「やっと兄弟でできるタイミングがきた」と喜ぶ。 ■それぞれの道で 祖父は三味線の二代目鶴澤道八、伯父は三味線の人間国宝、鶴澤清治と〝文楽一家〟で育った。幼少期から自然と浄瑠璃にひかれ、太夫と三味線弾き、それぞれの道で芸を磨いてきた。 織太夫はここ10年ほどは鶴澤燕三らベテランの三味線で研鑽を積み、期待の若手から次代のトップランナーへと一気に駆け上がった。その間、清馗との共演はほぼなかったが、令和2年の若手素浄瑠璃の会で「河庄(かわしょう)」を兄弟で勤める機会があり、「『ええ三味線弾きになったな』と思ったんです。いやこれはホンマに」。厳しい太夫と優しい兄、両方の顔でほほ笑む。 ■「織太夫」ゆかりの名曲 太夫の最高位「切場語り」ら実力者がそろう今公演での兄弟共演は、それ以来温めてきた念願だった。選んだ演目は人と柳の精の異類婚姻譚「卅三間堂棟由来」、通称「柳」。江戸から明治期に美声で人気を博した六代目竹本綱太夫が、二代目織太夫時代に初代豊澤新左衛門の三味線で語ってはやらせた「織太夫」ゆかりの名曲だ。 主人公のお柳(りゅう)は柳の精。血の通った人間でも動物でもない、植物の幻想的な透明感を表現するのが太夫も三味線も難しいとされる。 織太夫は師匠の豊竹咲太夫(今年1月死去)に「『幽霊じゃないけども、柳の精やということを意識して言葉を言わなあかん』と教わりました。ちょっとあやしい音階に持っていくというか」と説明する。清馗も「師匠(清治)の音はさえわたっていて、でもちょっと優しい感じもする。あの音に少しでも近付きたい」と意欲を燃やす。 名曲と言われるゆえんは、お柳の本体である柳が切り倒されて運ばれてゆくクライマックスで歌われる「木遣り音頭」にある。