文楽の竹本織太夫と鶴澤清馗「息の合った演奏を」 対照的な兄弟が念願の共演
1度目は<和歌の浦には名所がござる>と木を曳く人夫が威勢よく歌う。「どこまで音が上がるの、というほど華やかにやるのが綱太夫系の語り方」と織太夫。
ところが、愛息と駆け付けた夫の平太郎が妻への思いをしおれ声で歌う2度目は、旋律は同じなのに哀切に満ち涙を誘う。この対比の妙が聴かせどころで、清馗は「派手に弾く1度目が楽に思えるほど、2度目は一音一音のきれいさに神経を使います」と緊張する。
■性格は正反対
義太夫の演奏は太夫と三味線が互いに力をぶつけ合う。舞台上では火花を散らす2人だが、プライベートでは仲良し兄弟だとか。
「いつも僕が一方的にしゃべって、弟はじっと話を聞いてくれる」と織太夫が言うように、性格は例えるなら兄が太陽、弟が月と対照的。だが、よく飲食店で鉢合わせたり同じ服を着ていたり通じ合うところがあるといい、「好みが一緒」と顔を見合わせて笑う。
清馗は「舞台の上でも、兄が考えていることは何となく分かる」と言う。織太夫も「浄瑠璃が仲良くなってはいけませんが、兄弟ならではの息の合ったところは見せられるんじゃないかと思います」と期待と自信をにじませた。(田中佐和)
6月29日午後1時開演。ほかに竹本錣太夫と鶴澤藤蔵が「伊賀越道中双六・沼津の段」、竹本千歳太夫と豊澤富助が「菅原伝授手習鑑・丞相名残の段」。