リアルで呪詛返しに? 三浦翔平が怪演…鬼の形相で表現した、伊周を覆う闇【光る君へ】
「良い政」を免罪符に、矛盾の塊になりつつある道長
そんな真っ黒クロスケな伊周だけど、その呪いがちょっとでも効いたかのように、暗い影が大きくなってきたのが道長くんだ。これまでは自分が権力を握ることには無頓着で、ただ「良い政がしたい」ためだけに天皇に一番近い地位に付いていたが、ついに「自分たちにとって一番都合の良い天皇」をまつり上げることを考えはじめた。 そのために頼通に「これは家のためではなく、世間のためだから」と思想を共有しようとするけど、そのたたずまいが、道長があれほど軽蔑した兼家と重なって見えた視聴者も少なくなかった。 ただこの考えに対して、ちょっと道長くんを擁護すると、確かに叔父と甥という関係のため、完全なコントロールは不可能だった一条天皇に、しばしば悩まされていた現場を私たちは見てきた。天皇が女にうつつを抜かしたために、大災害に備えることができなかったときの道長の無念を思うと、「1から10まで言うことを聞いてくれる人をトップにしたい」と考えるのは、無理もないことなのだ。ただ問題は、そういう道長の政が本当に正しいのか? ということなのだが。 「良い政」を免罪符に、すべてを自分の思い通りにしようとするという、矛盾の塊になりつつある道長。こうなってしまった彼に忌憚なく意見できるのは、創作という作業を通して、現代と未来を見据えることができる「作家」の目を持ち、しかも彼に「良い政をせねばならない」という呪いをかけた張本人であるまひろだけだろう。 今回のラストのまひろの表情には、本来のんびり屋の道長を修羅の道に引きずり込んだ、後悔みたいなものが現れているように思えた。 そして摂政・関白の地位に狂おしいほどこだわり抜いた前時代の遺物として、来週には退場するであろう伊周。しかしまもなく、貴族社会がゆるやかな下り坂に入っていくことを考えると、その最後の輝きと言える時代に世を去っていくのは、彼にとっては幸いなのかもしれない。この呪詛のシーンを撮影している頃は、本当に唱えたらヤバい呪文もあって「体調を崩した」と語っていた三浦。今はもう、お祓いに行っていることを願おう。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月13日放送の第39回「とだえぬ絆」では、道長が敦成親王を天皇にする野望を加速させていく様子と、まひろの一家に思わぬ悲劇が降りかかるところを描いていく。 文/吉永美和子