「2秒のシーンの考証にも莫大な労力」ドラマ『パチンコ』が描いた在日コリアンの人々と、よりリアルな描写を支えた“裏方”の仕事
コリアタウンがある理由を知らない日本人も。パチンコは「溝を埋める作品」
作品には、人数は少ないが在日コリアンの俳優も出演した。朴昭熙(パクソヒ)さんが父親時代のモーザス役、南果歩さんがモーザスの恋人・悦子役を好演した。2人とも、在日コリアン3世だと公表して活動している俳優だ。朴さんは、原作者のリーさんから執筆のリサーチ中に取材を受けた一人でもある。 伊地知さんは、在日コリアンの俳優の参加のもと、在日コリアンの歴史を描くドラマ作品が作られたことに大きな意義を感じ、ドラマを通して「少しでも多くの人に歴史を知ってほしい」との思いを抱く。 その思いは伊地知さんが、2023年にオープンした大阪コリアタウン歴史資料館の設立に尽力した大きな理由の一つでもある。 韓国アイドルやドラマの影響もあり、韓国料理などを楽しむために大阪コリアタウンには年間200万人が訪れる。しかし、そこになぜコリアタウンがあるのかという歴史的背景をきちんと説明できる人はどれだけいるだろうか。伊地知さんが大学の講義で尋ねた際も、知らないと答えた学生の多さに愕然としたという。 「在日コリアンの歴史に関心を持つ機会も、学ぶ機会もなかった人も多いのかもしれません。在日コリアンに対する無関心とヘイトが蔓延する社会は『地続き』です。身近な話題や地域から日本と朝鮮半島の歴史を知ることが大切だと考えています」 在日コリアンを描いたこの作品が、その「溝」を埋める第一歩となると信じ、伊地知さんは「文化の力は大きく、政治や経済を超える影響を与える」と指摘する。 これまでも、韓国のドラマや音楽が人気になる中で、多くの日本人の韓国に対する印象が変わる様子を目の当たりにしてきた。在日コリアンについても、ドラマが「歴史を知り、理解を深めるきっかけ」になればと望む。 (取材・文=冨田すみれ子)