若い掛布雅之が王貞治から学んだ<ホームランの極意>とは。「優雅さが魅力だった田淵さんに、王さんのような厳しさも備わっていれば…」
2023年シーズン、阪神タイガースは1985年以来、実に38年ぶりの日本一に輝きました。「ミスタータイガース」の愛称でファンに愛され続ける掛布雅之さんは、ここまでの阪神の歩みをどのように振り返り、現在の球界をどう捉えているのでしょうか? その著書『虎と巨人』から一部を紹介します。 【写真】田淵幸一さん、後藤次男監督と掛布さん。1978年撮影。読売新聞社提供 * * * * * * * ◆王さんから教わったホームランの極意 若い頃、通算868本塁打のプロ野球記録を持つ王貞治さんが極意を教えてくれました。 「掛布君、ホームランの数を増やすのに必要なことは、バットを振ることではなく、ボールを見極める我慢だよ。ホームランを打てるボールが来たら振る勇気を持ちなさい。そして、そのボールを仕留める技術を身につけなさい。これがないとホームランは増えません」 と言うのです。王さんの残した数字がそれを実践したことを物語っています。 驚くことに四球数は毎年、試合数と同じぐらい稼いでいるのです。1974年の158四球は今でもシーズン最多記録です。130試合制の時代なので、現在の143試合制なら170は超えていたでしょう。一振りで仕留める技術もまさにその通りで、ファウルが少ない打者でもありました。 プロでもボールの見極めが下手な選手がたくさんいます。巨人の阿部慎之助監督と話したときに「練習では打つことが大切。試合では見極めることが大切なのに分かっていない」と嘆いていました。 確かに私も練習ではボール球も打ちますが、試合では振りません。ボール球にスイングをかける場合は、自分の中でストライクと思って勝負しているわけです。 たとえワンバウンドの球を振っても、気持ちの中ではストライクを打ちにいっているのです。試合を見ていて「本当にストライクと思って振っているのだろうか」と思うことがよくあります。
◆王さんの目が怖くなくなった年 見極めの達人の王さんは打席で鷹のような目で投手をにらみつけます。一塁を守っているときですら眼光は鋭く光っています。出塁しても目を合わせるのが怖いぐらいです。 「おはようございます」とあいさつすれば、「おはよう」とは言ってくれるのですが、怖くて目を見られないほどです。四球で崩れそうな投手がけん制を一塁に入れた後は「しっかりせんか」と全力で投げ返すなど、とにかく勝利への執念がすごいのです。 そんな王さんの目が怖くなくなった年があります。長嶋茂雄さんが引退された翌年の1975年です。 ホームランを打った後に三塁ベースを回る王さんが笑っているように見えたのです。「今年は楽にやるんだ」みたいな感じでした。 その年はV9が終わった翌年で、長嶋さんが引退。川上哲治さんに代わり、長嶋さんが監督に就任していました。王さんだけでなく、巨人というチーム全体に張り詰めていた糸がぷつんと切れたかのようでした。
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