「令和の米騒動」とは何だったのか 政府備蓄米は放出されず、米が消えた夏 そこから私たちは何を学ぶべきなのか
市販の米を真空パックで売る台湾
おとなりの台湾では、米は真空パックされ、賞味期限1年で売られているという。台湾向けに米を輸出している日本企業も、真空パック加工を施し、賞味期限は1年間としている。 日本でも精米を真空パックにして賞味期限1年で販売すれば、販売期間を1カ月から8カ月にのばせるのではないか──。 業界団体に問い合わせると、 「可能性はあまりないと思う。空気が入ると交換(返品など)になってしまうので業者はやりたがらないのではないか」(日本米穀商連合会) 「設備投資、人手、製造責任などを勘案すると現実味がなく、精米業者での対応となると思われるが、そのコスト上昇分を消費者が価値として負担してもらえるかがポイントになってくると考える」(全国スーパーマーケット協会) という回答だった。
米の販売期限が精米後1カ月の理由
そもそも精米時期表示しかない米が、精米後1カ月ほどで棚から撤去されてしまうのはなぜなのだろう。 米国のあるウェブサイトには、精米は2年間保存できるとある。先日、カンボジアの大学で講義をした帰りにのぞいたスーパーの米売り場でも、米は2年間の期限表示だった。 精米の「賞味期限」設定に取り組んだ横江未央氏と川村周三氏の研究によると、精米の賞味期限は25度で2カ月、20度で3カ月、15度で5カ月、5度で7カ月だという(Yokoe and Kawamura, 2008)。 空調の効いたスーパーの店内は25度前後。消費者においしいお米を食べてもらおうとすれば、店頭での販売期限が精米後1カ月程度とされていることは、やむを得ないのかもしれない。 しかし、賞味期限は「おいしさのめやす」にすぎない。精米して2カ月たったお米だって食べられなくなるわけではないのだ。
米の食料安全保障のためにすべきこと
日本でもコンビニなどで見かける2合入りの小袋の米は、真空パック加工されていないが、賞味期限は半年から1年となっている。 米の賞味期限を1年にできるのはなぜなのか。 製造元であるアイリスオーヤマによると「米の包装に『窒素入り高機密パック』を使い、『脱酸素剤』を同封することで、劣化の原因となる酸素や湿気を遮断し、未開封の場合、1年間は鮮度保持できる」のだという。 多少価格は高くなっても、「魚沼産コシヒカリ」「山形産つや姫」などのブランド米を、とことんおいしく食べる選択肢があってもいいと思う。 逆に精米後2カ月以上たった米を、特別な包装なしに値下げして販売するという選択肢があってもいいのではないか。消費者の優先順位は味とは限らない。育ち盛りの子どもが何人もいる家庭では質より量がよろこばれることもあるはずだ。 日本人にとって米は「食料安全保障の要」である。食料安全保障のため、猛暑でも生産量の落ちない高温耐性品種米の栽培を広げることや、備蓄米の運用方法を再検証することは重要に違いない。 しかし、米の供給を安定させるためにすべきは、まず米の食品ロスを減らすことではないだろうか。
朝日新聞社