大学の授業時間が105分に延長、学生にはどんな影響が? 校門前で反対ビラを配った教員も
学ぶ姿勢と方法を身につける
105分授業を導入した21年度以降も、大学のアンケートでは、8割以上の学生が「授業に満足している」と答えています。教員からは、「学生からの自発的な質問が増えた」「期末試験の前にまとめて勉強することが学生の負担になっていたが、毎回の課題の提出で成績を評価するようになり、学生の気持ちに余裕が出たように思う」といった声が寄せられました。 ただ、学生からの評判が悪かったのは、昼休みを短く設計したことでした。放課後の課外活動の時間を確保するため、40分だった昼休みを30分にしたところ、学長のもとに反対意見がいくつも届きました。このため、25年度からは45分に延ばす予定です。 105分授業は、一方通行の座学ではなく、ディスカッションやプレゼンテーションなどを通じて学生が積極的にアウトプットする学びを支えています。 真銅学長はこう話します。 「同じ学習効果が上がるなら、楽をしたほうがいいというのが私の基本的な考え方です。与えられる知識を覚えるだけではなく、どうしたら短い時間で効率的に知識を得られるか、時間の使い方も自分で工夫してほしい。学ぶ姿勢と学ぶ方法を身につけて一生学び続けていけば、大きく成長できると思います」
校門前で反対ビラを配布
一方、授業時間の延長に対して、他大学では異議を唱えた教授もいました。 名古屋大学大学院経済学研究科の齊藤誠教授は、一橋大学の教授だった2015年当時、105分授業の導入に反対の声を上げました(一橋大学は17年度から105分授業を導入)。 「人間の生活のカレンダーを刻んでいるものを勝手に変えてしまうと、生活や学習のリズムを壊してしまいかねません。授業時間の変更と同時に、前期・後期の2学期制を4学期制(クオーター制)に変える内容でした。それまでは地元の祭りと学園祭が同時期に開催されて大いに盛り上がっていましたが、4学期制では学期末の試験と重なってしまうことも残念に思いました」 校門前で反対のビラを配ったものの、学生の反応は薄かったといいます。 「教員が反応しないことは予想していましたが、学生も自分たちの生活リズムが壊れることに関して無頓着でした。変化は仕方がないものです。でも、それを無条件に受け入れるのではなく、立ち止まって考えてほしい。そんな問題提起をしたかったのですが、残念ながら反応はほとんどありませんでした」 17年度に105分授業が導入されると、教授たちの間で「講義の進行が速くなる」ことが共通の話題になったそうです。齊藤教授の場合、授業では最初に雑談をして助走をつけ、学生の調子が上がってきたら速く進めていくというスタイルを取っています。105分だと助走後の時間が長くなり、つい多くのことを教え込んでしまうため、学生の集中力が限界に達し、消化能力が落ちてしまったといいます。 「高校の50分授業に比べると倍の時間ですから、特に1、2年生は人間の身体的な限界を超えてしまっているのが見て取れました。集中力が落ちるとノートが取れなくなり、完全に受け身で授業を聞くことになります。105分授業になって、学生の受け身度が高まったと感じました」 授業のスタイルを変えなければ、長くなった授業を聞くことさえ限界があるのかもしれません。ただし、授業や変化にどう関わるかは学生次第です。齊藤教授が伝えたいのは、90分か105分かということではなく、「自分が大学で過ごす時間を大切に考えてほしい」ということです。授業での学びを自分自身の成長につなげられるかどうか。教員が工夫すると同時に、学生自身にも受け身で終わらない積極性を持つことを求めています。 齊藤教授が現在勤務している名古屋大学では、90分授業を続けています。授業時間を延ばす大学が今後も増えるのか、それとも90分授業を維持する大学が多数派のままなのか、「大学の授業時間」の問題は、しばらくは過渡期が続きそうです。
朝日新聞Thinkキャンパス