「高齢者とお話」で時給2000円超え。味の素出身社長が救う"伝わらない声"
シニアと若者に対する「解像度の高さ」が商品
エイジウェルデザイナーが活躍する「もっとメイト」の事業は、同社にとって祖業ではあるが稼ぎ頭ではない。月1万2000円という価格も「富裕層向けだね」と言われる。 赤木社長は 「そもそも、売り上げ構成比として伸ばす気がありません。シニアのリアルを把握するためのR&D(研究開発)のような位置づけ」 と言い切る。 では、同社は何で稼いでいるのか。 収益の9割は法人向けのBtoB事業だ。高齢顧客が多い企業や自治体、医療機関などに対する研修プログラムの提供や、行政と連携したシニア向けの支援といった事業開発を手掛けている。 例えば、高齢者との接客技術を高める「エイジウェルデザイナー育成研修」はソフトバンクやきらぼし銀行などが導入している。 この研修に役立っているのが、大学生アルバイトらが活躍する「もっとメイト」だ。「もっとメイト」では高齢者とエイジウェルデザイナーの会話を記録し、サービスの向上や研修プログラムの構築に役立てているという。 さらに、BtoB事業では企業側からの「若者の育成の仕方が分からない」というニーズにも応える。今、エイジウェルデザイナーとして働いているのは多くが大学生。同社はZ世代への理解も深い。 「Z世代には、社会的意義を重視し、成長欲求はあるけど段階的に着実に成長したい──という人が多いです。研修でも、Z世代の気持ちを意識したコミュニケーションを設計している。 『とりあえず飲みに行こう』や、仕事を頑張ればモテる、良い車に乗れるーといったコミュニケーションはNGです」(赤木さん) 企業に提供する研修では、こうした「Z世代の扱い方」も伝える。シニアと若者、双方向への解像度の高さがBtoB事業の強みになっている。
祖母の言葉で味の素辞め起業
赤木社長が「高齢者の声に耳を傾ける」サービスを始めたのは、自身の祖母がきっかけだ。 祖母の「美術館に行きたいけれど、家族に付き添ってと頼みづらい」という言葉や、怪我を機に少しずつできないことが増えたときに「ごめんなさいね、迷惑をかけて」と周囲に謝る姿に強い違和感を感じるようになった。 「人生の最期に感謝されるべきシニア世代が、家族や社会に謝っているのはおかしい」と憤りを感じたことが起業の原動力になり、2020年、当時勤めていた味の素を退職して起業を決めた。 退職後は、約3カ月かけて高齢者100人にインタビューを重ねてビジネスの可能性を探った。高齢者施設を訪問することもあったが、大半は街頭に立って道行く高齢者に声をかけ続けた。「広尾や巣鴨など、思いつく限りのシニアの多そうな場所に行った」(赤木社長)という。 100人の話を聞いて分かったのは、多くの高齢者は「居場所」と「自尊心」が欠けているということ。 「広尾の一等地に娘や孫と住んでいるけど、月に1回しか声帯を使わないという方がいた。その方は健康で経済力もあったものの『私なんて』とマイナス思考でした。居場所を実感しながら自尊心を保ち続けている人はほとんどいなかった」(赤木社長) インタビューを通して、高齢者の居場所と自尊心を高めるようなサービスの必要性を感じた。そんな折、青山で出会った70代の女性の言葉が印象に残ったという。 「自分の介護を手伝ってほしい人と、一緒に百貨店にお出かけに行きたい人は違うと。 どういう人がいいのか聞くと『青山学院大学のラグビー部の子』だと。爽やかな印象の彼らに荷物を持ってもらえると嬉しいと聞き、なるほどなと思った」(赤木社長) 赤木社長自身にも心当たりがあった。かつて、高齢者の困りごとを支援する自治体のサービスにボランティアとして参加した際、「若い人に会うだけで元気になる」と想像以上に喜ばれたことがある。 「もちろん同世代が訪問する良さもある。でも、世代間交流の重要性をすごく感じた」(赤木社長)