トラックGメンもうすぐ「創設1周年」 しかし、ちゃんと機能しているのか? 荷主の報復に運送会社いまだ怯える現実
「情報を話すのは1割弱」という現実
「電話をしても、半分以上の運送会社は、『何も問題はありませんよ』と答えます。ちゃんとした情報を教えてくれるのは、1割弱ですね」 これは当時取材したトラックGメンの言葉だ。 「荷主からの報復が怖い」 「もしトラックGメンにチクったことがバレたら」 「最悪、取引を切られたら、会社の経営に影響を与える重大な事態となってしまう」 このように考え、トラックGメンへ、荷主・元請からのふらちな要求を告白できない運送会社がいる。 高速SAでトラックGメンからヒアリングを受け、日頃たまった荷主への不満を洗いざらい話したところ、後日そのことを知った社長から叱責(しっせき)された、なんていうドライバーの話も聞く。 ある地方の運送会社社長は、 「荷主も含めて、運命共同体なんですよ」 と話す。地方の限られた経済圏のなかでは、運送会社はもちろん、荷主・元請、あるいは配送先も顔見知りである。例えば長時間の荷待ちを強いられたとしても、その事情も詳しくわかっているのだという。 「ウチみたいな田舎の小さな運送会社では、荷主も配送先も含めて運命共同体なんですよ。このなかで、ウチだけが『いい子』になって、荷主を告発しようものなら、もうこの地域で商売を続けていくことはできません」 と、先の運送会社社長は本音を吐露する。さらにいえば、荷主を告発することで、 「自社のコンプライアンス違反」 が白日のもとにさらされることを恐れる運送会社もいる。トラックGメンが摘発しようとしているのは、長年にわたり、“商慣習”という名目で運送業界にたまった 「膿(うみ)」 である。その膿は、荷主や元請事業者だけにたまっているものではない。運送会社自身も、自ら生み出した膿にまみれているケースがあるのだ。
求められる告発の環境づくり
確かに、下請法では不正行為の摘発による報復措置を禁じている。報復措置とは、次のとおりだ。 「下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること」(報復措置(第1項第7号)) だが、これだけでは運送会社は安心できない。大胆ではあるが、筆者はトラックGメン等による荷主・元請、あるいは運送会社自身に対し、ある種の“司法取引制度”を設けることを提言したい。 ・運送会社が告発し、荷主/元請がそれを認め、かつ是正する意思を示した場合は、是正のための猶予期間を設ける。 ・同時に(コンプライアンス違反を自認する)運送会社は、自社のコンプライアンス違反を是正する旨、コミットする。 ・荷主/元請はもちろん、運送会社も、それぞれに与えられた猶予期間中にコンプライアンス違反を是正する。 荷主・元請に与えられる是正のための猶予期間は、1~2か月。対して、運送会社は、より長い猶予(例えば半年程度)に設定してはどうだろうか。 運送会社のほうが是正猶予期間が長いのは、荷主・元請がコンプライアンス違反を是正しないと、運送会社自身のコンプライアンス違反は是正ができないことに加え、トラックGメンへの報告を促すための 「インセンティブ」 として作用させるためだ。現在、トラックGメンだけでなく、公正取引委員会が下請法に基づき荷主の運賃買いたたきに対する摘発を進めるなど、政府は運送業界の取引適正化に向け、これまでにない陣容を組み、積極的に取り組んでいる。だが、こういった一連の浄化活動(とあえていおう)を阻むのが、救われる側の運送会社であることはなんとも皮肉である。 自ら進んでブラックな運行、ブラックな経営を行い、運送業界の浄化を阻む運送会社もいる。こういったブラック運送会社の摘発も行いつつ、是正の意思はあるものの、経営への悪影響などを恐れ、荷主が行う不正行為に対する情報提供に二の足を踏む、 「グレーゾーンの運送会社」 が、安心してコンプライアンスを順守する(できる)運送会社へと生まれ変わる仕組みづくりを整備することも必要だと筆者は考える。 先に挙げた司法取引制度の導入は、あくまでアイデアのひとつである。ぜひ政府は知恵を絞って、運送ビジネスの浄化に努めてほしい。
坂田良平(物流ジャーナリスト)