フェラーリの「V12エンジン」はなぜ生き延びることができたのか? 新たな旗艦「ドーディチ チリンドリ」に見た「跳ね馬の覚悟と情熱」
跳ね馬の新フラッグシップはその名もズバリ“12気筒”
フェラーリの歴史の礎であり、欠くことのできないピースといえば、なんといっても12気筒エンジンでしょう。 【画像】「えっ!…」これが新しい自然吸気V12エンジンを積む新型「ドーディチ チリンドリ」です(41枚)
ですが、近年はご存知のとおり、環境適合の面からも純然たる内燃機関の居場所が狭まってきています。世界のスーパーカーブランドは電動化の道を模索中で、フェラーリもストラダーレ=量産モデル群である「SF90ストラダーレ」や「296GTB」といったシリーズのPHEV(プラグインハイブリッド)化をすでに完了させています。 では、12気筒エンジンはこの先どうなるのか? 注目されていたわけですが、いざ登場したのはモーターライズされていない、あるいは過給機も持たない、“生の12気筒エンジン”を搭載したFRの2シータースポーツモデルでした。 位置づけ的に、「812スーパーファスト」の後継となるその名は「12 Cilindri」。イタリア語での発音は「ドーディチ チリンドリ」となります。これ、英語に訳せば“12 Cilinder”、日本語に訳せば“12気筒”です。なんと車名が“12気筒”という、「ラ・フェラーリ」もびっくりの豪快な名前ではありませんか! 新生「ドーディチ チリンドリ」が搭載する12気筒エンジンは“F140HD”型。F140系エンジンは2002年の「エンツォ フェラーリ」にその端を発しており、「599」以降は「FF」や「GTC4ルッソ」、「F12ベルリネッタ」や「812スーパーファスト」、そして「プロサングエ」といったストラダーレに搭載されてきました。 数字的なことは教えてくれない、というのがフェラーリの常ですが、設計者の名をとって“コロンボエンジン”と称されていた1947~1989年の12気筒ユニットを超えて、おそらくフェラーリの歴史上、最も多くの生産基数を誇る12気筒ユニットではないかと思います。そして個人的には、今世紀最強の内燃機関と呼ばせていただきたい、そんな逸品です。 “F140HD”型の最高出力は830ps/9250rpmで、レッドゾーンは9500rpmに設定。これは「812スーパーファスト」をベースとするスペチアーレ=特別なモデル「812コンペティツィオーネ」に搭載された“”F140HB“型と全く同じスペックです。 一方で最大トルクは、排ガス周りの環境規制対応のため若干“やせて”いますが、実用回転域となる2500rpmでその80%を引き出すことによってパワーバンドを大きく採っています。 「F12ベルリネッタ」のスペチアーレである「F12tdf」が「812スーパーファスト」誕生に大きな影響を与えたように、スペチアーレの開発が後任となるストラダーレへの伏線となるのはフェラーリではままあることです。 チタンコンロッドやアルミ鍛造ピストンの採用、クランクシャフトの軽量化、バルブを押すスライディング・フィンガーフォロワーのDLCコーティングなど、そのハードウェア及び潤滑・冷却系は、先駆けて大幅にリデザインされた“F140HB”型のものを最適化しています。 一方、エンジンマネジメントはさらに緻密化され、スポーツ走行で多用する3、4速ギア使用時にトルクカーブを厚盛りするアスピレーテッド・トルク・シェイピングを採用するなど、ドライバビリティの向上を電子制御側からもサポートしているわけです。 また、8速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の採用により、レシオカバレッジがワイド化したことも走りの応答性をより高めることにつながるでしょう。 一時は店じまいや電動化のウワサも上がった“F140”系ユニットが、自然吸気のまま存続・継承されたことで、「ドーディチ チリンドリ」の大勝利は見えたも同然の感があります。 ●シャシーも大幅に進化した「ドーディチ チリンドリ」 そんな「ドーディチ チリンドリ」は、シャシーやビークルダイナミクスの面でも大きな変更があります。 ホイールベースは「812スーパーファスト」比で20mm短い2700mm。フェラーリがバーチャルショートホイールベースと呼ぶリアステア機構やサイドスリップコントロールといったボディコントロールデバイスも、最新世代へとアップデートされています。 加えて注目なのは、ブレーキ・バイ・ワイヤーの採用によってこれらのボディコントロールデバイスとブレーキとの連携がより緻密化したことです。 車両挙動をセンシングするために6軸のダイナミックセンサーも加わり、電子制御のリニアリティもより高まっています。これらはミッドシップの「296GTB」に先んじて採用されたものですが、FRモデルでは「ドーディチ チリンドリ」が初搭載となります。