アニメ映画大ヒットでも製作現場に恩恵届かず 神山健治監督が現状打破訴え
『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズや『東のエデン』など骨太で重厚なテーマの作風を手掛けてきた神山健治監督が、自身初となるオリジナル長編アニメーション映画『ひるね姫』を世に送り出す。これまでの神山カラーを根底に入れつつも「よりパーソナルに寄った作品を」という思いを込めた新たな挑戦――。大きなバジェット、否が応にも高まる興行的な期待に「意識せざるを得ない」と胸の内を吐露した神山監督だが、その背景には、現在のアニメ界を取り巻く環境への率直な思いもあるようだ。
「自分の娘に見せたいような作品」がコンセプト
昨年、新海誠監督作『君の名は。』の歴史的な大ヒットをはじめ、細田守監督も『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』と2作続けて興行収入40~50億を超えるヒットを飛ばすなど、スタジオジブリを中心としてきたアニメ界の勢力図も混沌としてきた。そんななか、アニメファンから絶大な支持を受けている神山監督が、満を持してオリジナル長編アニメーションでメガホンをとった。 「きっかけは『009 RE:CYBORG』が終わったあとにいくつかお話をいただいたなかで、『特に何の縛りもなくオリジナル劇場作品を作ってみないか?』という提案があったんです。東日本大震災をはさんで『009 RE:CYBORG』を制作していたのですが、次の作品は今まで作っていた壮大なファンタジーやSFではなく、もっとミニマムな個人的な思いに寄った作品を作りたいなという気持ちがあったんです。そこにプロデューサーから『自分の娘に見せたいような作品を作ってみたら』という一言をいただき、僕のなかの創作スイッチが押された感じですね」
最大公約数より最小公倍数での映画作り
動き出したプロジェクト。そのなかで重視したことは「自分の気持ちが乗っていけるもの」だという。とは言いつつも、大きなバジェットが動くプロジェクトだけに、より“大衆的”という思いは無意識にも働いていたという。しかし「マスにアプローチするといっても、それってすごく漠然としたもの。特にインターネットやSNSの普及で、はやりも細分化され、全体に受けるものという発想は、もはやありえないのかなって思うんです。最大公約数というよりは、最小公倍数でスタートするという考え方です」と持論を述べる。 そこで神山監督が選んだテーマが“世代間の話”。 「家族のつながりというか、自分も高校生だったとき、両親にストーリーがあるなんて思っていなかった。生まれたときから親は親だから。でも親にもストーリーがあるから、自分が生まれたわけだったりする。そういうことってある程度の年になって気づくことなんですよね。そこを描きたかった。家族は社会の最小単位、親にストーリーがあると気づけば、他人にもストーリーがあることが分かる。そういう認識を持てれば成長にもなるし、世界が広がっていくと思うんです」