アニメ映画大ヒットでも製作現場に恩恵届かず 神山健治監督が現状打破訴え
群雄割拠のアニメ界で狼煙を上げる
細田監督、新海監督、そしてスタジオジブリから独立した米林宏昌監督も今年、新作アニメを発表する。小規模公開からスタートしたが、口コミなどの力で広がり、最終的には300館以上の劇場で上映された『この世界の片隅に』の片渕須直監督、さらに先日、宮崎駿監督が長編アニメ制作の企画を進行中であることが、鈴木敏夫プロデューサーの口から語られたことが大きく報道された。 そんな群雄割拠のなか、神山監督のパーソナルな思いに寄った発想ではあるものの、万人に内在するテーマで、これまでの神山作品以上に幅広い層へのアプローチを図る。 スタジオジブリが牽引してきた大きな市場に対して、宮崎駿監督の引退、スタジオジブリ製作部門の解体という現実から、細田守監督、新海誠監督らの作品がヒットすると“ポストジブリ”“ポスト宮崎駿”という言葉が使われることがあるが、神山監督もそのプレイヤーの一人であるという当事者意識はあるのだろうか? 「僕自身はアニメという世界のなかでメインストリームではなく、人と違うことをやっているという意識があったのですが、こうして大きなバジェットでオリジナルの長編をやらせてもらうと、そういった部分を意識せざるを得ないのかなとは思っています。今まで感じたことがないプレッシャーもあります」と心情を吐露するが、「前向きに考えるなら、そういう立場をやりたくてもできない人がいるなか、監督をやらせてもらっていることは自覚したい」と強い視線で語った。
大きなヒットも依然として続く現場の疲弊感
さらに、神山監督にとって、大きなヒットを願うことには一つのある思いがあるという。それはアニメ界が抱える労働条件という問題だ。 「現在、アニメが大きなヒットを飛ばすことが多くなってきていますが、製作現場では、その恩恵が裾野まで広がっていないのかなと思うんです。アニメ業界だけじゃないかもしれませんが、求められるものに対して、供給する側のリソースがどんどん減っている。僕もつらい経験はまだ心に残っています。そういった部分を解消していく方法も同時に考えていきたい」とアニメ業界全体の未来へ思いを馳せていた。 (取材・文・写真:磯部正和) ---------------- ■神山健治(かみやま・けんじ) 1966年3月20日生まれ。埼玉県出身。背景美術スタッフとしてキャリアをスタートさせると『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズで監督およびシリーズ構成を務め、続く『精霊の守り人』でも、監督とシリーズ構成を担当。オリジナルTVシリーズ『東のエデン』では原作も手掛けると、映画『009 RE:CYBORG』でフル3D劇場作品の監督を務めた。