柏原を超えた青学の“新山の神”は登り坂が苦手だった
ヒーローはどこに潜んでいるのかわからない。それが箱根駅伝の魅力であり魔力だ。 1月2日に行われた箱根駅伝の往路では、「神」をも恐れぬ男が偉業を成し遂げた。V候補といわれた駒大が、トップで5区に中継すると、その46秒後に青学大・神野大地がスタートする。身長164cm、体重43kg。力強さとは対極の男が、山を前に“巨人”と化した。 「1~4区までがいい流れで持ってきてくれたので、あとは自分がやるだけ。1年間、箱根のためにやってきたので、その力を全部出そうと思って走りました」という神野は最初の5kmを14分47秒で通過する。予定より30秒以上速い入りも、運営管理者の原晋監督から、「調子がいいから自信を持っていこう」という声が届くと、そのまま攻め込んだ。雪化粧が残る箱根山中で、顔を何度も歪ませたが、ペースはまったく落ちない。 徐々に藤色のタスキが大きくなった。神野は大平台(9.6km地点)で駒大に10秒差まで詰め寄ると、10.2kmで並ぶ。そして10.4km過ぎにペースチェンジした。 「駒大に追いついたときは、ペースが少し速かったこともあり、いったん休みました。でも、馬場翔大君のペースが上がりそうになかったので、そこからは後ろを引き離すことだけを考えて走りました」 神野の目標タイムは「1時間17分30秒」だったが、頭の片隅には別の数字があった。柏原竜二がマークした「1時間16分39秒」だ。5区が最長区間になって、1時間18分を切った選手はひとりだけ。「山の神」と呼ばれた男の伝説の記録に挑んだのだ。 「柏原さんが区間記録(当時)を出したときのラスト5kmが14分37秒くらいで、すごく速かったんです。でも、頂上を上り切ったところで、監督から『区間記録よりも20秒速いぞ』と言われたときに、『いけるぞ!』と思いました」 青学大として初の往路Vとなる歓喜の瞬間には、さらなるサプライズが付随した。神野が1時間16分15秒という信じられないタイムを刻んだからだ。