「盗んだハイヒールを肛門に挿れて…」やめられない性衝動、依存症専門医が語るどぎつい症例と患者の結末
やってはいけないことをやりたくなってしまう
ハイヒールに異常なまでにこだわってしまうAさんの心理について、山下さんが解説を続ける。 「Aさんの場合は、少し複雑なのですが、“使用中のハイヒールで自慰行為をしたい”という性的衝動があります。 しかし、使用中のハイヒールというのは、女性が実際に履いていた(履いている)ハイヒールのことです。となると現実的には、奪うしかない。 『ハイヒールを履いている“女性”』ではなく、『女性が履いている“ハイヒール”』を見ると、ドーパミンが分泌されてしまうのです。 自慰行為までがセットですから、行為が終わったら興味がなくなる。そのため、証拠隠滅もせずに、ゴミ箱にポイと捨ててしまうのでしょう」 また、依存症は、性依存症ならば性欲が人並外れて強いとか、ギャンブル依存症ならば賭け事に面白みを感じているから、といった、欲や嗜好の問題ではないのだという。 「そもそも人が依存する理由は、快楽よりも苦痛の緩和です。嫌なことから逃れるために、依存行為をする。そのうちに依存行為がやめられなくなる。 わかりやすく言えば、脳が依存行為に乗っ取られている状態になっていくのです。 そんな人たちに対し、周囲の人がやりかねない言動は、脅しや説教です」 確かに、振り回されている周囲の人間としては、「このままだと入院になるぞ」「次にやったら離婚をする」などとついつい言いがちだ。 「脅しや説教をすると、本人の不安は高まる=苦痛を感じるため、かえって本人のやりたい衝動は高まってしまうものなのです。 それだけでなく、痴漢や盗撮、窃盗などの違法な行為依存症では、加害者に刑罰を課すことは、抑制するどころか逆効果になる可能性があります。 なぜなら、行為依存症とは『やってはいけないことをやりたい』『失敗したら大変なことにチャレンジしたい』病気だからです」 痴漢や盗撮、露出やのぞきなどは再犯率がとても高い犯罪と言われている。 その理由のひとつとして、捕まることでむしろ問題行動のチャレンジ性を高める要因となるという皮肉な構造があると、山下さんは語る。 「『次にやったら離婚』『次に捕まったら実刑』という状況は、問題行動ができそうな場面に直面すると、脳から大量のドーパミンが分泌され、当人を操作してしまう可能性があります。 もちろん被害者感情は尊重すべきですし、社会として刑罰を科すことは必要なことではあります。 ですが、実際問題として、『事件のことを忘れないように、留置された警察署の写真を自宅に貼っておく』『被害者に渡した手紙のコピーを、毎日読む』といった行動を継続していた加害者が、それを繰り返し見ていたがために渇望が高まり再発し、当院を訪れることになった……といったケースも多いのです」 このような依存症患者に対し、山下さんはどのようなアプローチをしているのか。 後編では、他の症例とともに山下さんが実践している治療法を紹介する。 PROFILE 山下 悠毅(やました・ゆうき)●ライフサポートクリニック院長。精神科専門医、精神保健指定医、日本外来精神医療学会理事。1977年生まれ、帝京大学医学部卒業。2019年12月、ライフサポートクリニック(東京都豊島区)を開設。「お薬だけに頼らない精神科医療」をモットーに、専門医による集団カウンセリングや極真空手を用いた運動療法などを実施している。大学時代より始めた極真空手では全日本選手権に7回出場。2007年に開催された北米選手権では日本代表として出場し優勝。最新刊は『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)。 ※紹介した症例は、当事者同意のもと事実に基づいて記述していますが、詳細の特定ができないよう一部フィクションを加えています。 取材・文/木原みぎわ
木原みぎわ