「国家安全条例」制定へ いよいよ香港を大陸化する習近平氏の「狙い」
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司と東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が1月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。香港政府が発表した香港独自の「国家安全条例」について解説した。
香港独自の「国家安全条例」制定へ
香港政府トップの李家超行政長官は1月30日、国家の安全を脅かす行為を取り締まる香港独自の「国家安全条例」の制定に向けた作業を開始すると発表した。条例制定は長年の政治課題で、外国の情報機関などによるスパイ活動の取り締まりが重点の1つになる。 飯田)既に香港国家安全維持法がありますが、それだけではなく国家安全条例をつくる。ますます締め付けが厳しくなるのでしょうか? 峯村)そうですね。かなり厳しい法律です。香港国家安全維持法は中国政府の法律ですが、国家安全条例は香港政府の法律であり、お互いに補完して監視をもっと強める。これは香港政府の悲願で、香港からすれば、二十数年間議論してきたことが「ようやくできた」ということです。
外国企業を含め、外国スパイ組織を意識してできているため、外国がターゲットになる可能性が高い
峯村)2002年にこれをやろうとした際は「50万人デモ」が起きて、民衆の力で阻止していました。しかし、今回は、そのようなデモを行うことはできません。「それだけ香港が変わってしまった」という象徴的な出来事です。この条例が怖いのは、外国企業も含めた外国人、特に外国のスパイ組織を意識してできているところです。香港に進出している日本企業を含めた外国企業にも影響を与える恐れがあります。これまで香港は中国の大陸と違い、「一国二制度」によって、法治が維持されていたので、外国企業の利益や権益も保護されてきました。しかし、この条例ができたことで、「一国二制度」は完全に崩壊し、香港の「大陸化」が完成した、というのが私の今回の見立てになります。
今後の市場をどこに求めるのか、サプライチェーンをどう構築し直すのか
飯田)ビジネスも含めてやりづらくなりますね。やはり関係性も考える必要がありますか? 小泉)中国そのものが「ビジネスチャンスであるのか、ビジネス上のリスクであるのか」という議論があります。これまでは疑いなく「チャンスの国」であったと思いますが、果たしてこれ以上、中国に投資してよいのか、中国とビジネスを続けてよいのか、中国にサプライチェーンの観点で依存してよいのか、わからなくなってしまいました。 飯田)今後は。 小泉)香港の条例を見ると、さらにそれが強まるのかなと思います。つまり比較的、安全にビジネスができそうな場所だった香港も本土並みか、あるいはもっと厳しくなるわけですよね。安保に関わる我々の発想としては、その分の市場をどこに求めるのか、サプライチェーンをどう構築し直すのかということです。商売人の人たちは商売人として、新しい市場をどうするかという話になると思います。