「国家安全条例」制定へ いよいよ香港を大陸化する習近平氏の「狙い」
中国は「和平演変」の恐怖から国力の基礎だったものを自ら崩しているのか
小泉)ロシアを見ていて思うのですが、中国は世界最大の市場でもあり、世界の工場でもあったので、ここまでのし上がってきた。そういう利点があったのに、自ら首を絞めているような気がします。中国はその辺りのリスクを計算しているのか、それとも毛沢東時代からずっと「和平演変」と言ってきたように、「見えない戦争を仕掛けられて内側から権力を崩壊させられるかも知れない」という恐怖の方が勝り、国力の基礎だったものを自ら掘り崩してしまっているのか……。どう考えたらいいのでしょうか?
習近平氏にとって「経済の発展」より「国家の安全」の方が優先順位が上
峯村)おっしゃる通り、習近平氏にとっての優先順位としては、「国家の安全」の方が経済発展よりも遥かに上なのです。習氏の内部の講演を含む演説をよく見ていると、習近平氏個人の頭のなかでは、経済はもう十分大きくなっているという発想なのだと思います。
根拠のない陰謀論がユーラシア大陸の広い範囲で正当化され、世界観そのものの分断がこれから大きくなる
峯村)それよりも、まず「国家の安全」が最も重要だと位置付けていることがわかります。、特に香港の場合は「アメリカのCIAが我々の体制をひっくり返すカラー革命をするための本拠地である」と、中国政府が信じて疑わないのです。。中国政府は「香港のアメリカ総領事館には、1000人のCIA職員がいる。それがいろいろな偽情報を流したり、スパイ活動をしたりしているから、これをまず叩かなければいけない」とよく言います。私は、香港の米総領事館に行ったことがありますが、「この建物に1000人も入るか?」とツッコむ大きさです。でも、中国当局者は「地下にいろいろあって」と反論します。とにかく信じて疑わないのです。そうなると、やはり国家安全条例には2つあるのです。外国組織、そしてスパイ活動を狙っていることがよくわかります。。 小泉)信じて疑わないのはロシア人もそうです。例えば「アメリカのクリントンとビクトリア・ヌーランドが結託して、ウクライナでの危機を引き起こしている」みたいなことを、みんな本気で思っている。アメリカもいろいろな陰謀を考えますから、一部は本当に当たっているのかも知れません。しかし、明らかに荒唐無稽なことも半分社会常識になってしまっているのです。仮にロシアだけがそうであるならば、「お前たちの国はおかしいよ」という話になると思います。でも、おそらくですが、プーチン氏と習近平氏の間でどんな話をしているかと言うと、ぴったり世界観が合っているわけです。 飯田)なるほど。 小泉)あるいは中央アジアの国々の独裁者たちも、同じようなことを言うのでしょう。ベラルーシのルカシェンコ大統領も同じことを言う。我々からすると明らかに根拠のない陰謀論が、ユーラシア大陸のかなり広い範囲では、正当なものになってしまっている。そうなると軍事力やサプライチェーンの寸断だけでなく、世界観そのものの分断がこれから大きくなるのではないでしょうか。