「売名行為」と言われても 被災者に届けた演奏300回 日本フィルの13年 #知り続ける
人と人の交流があったから
「被災地に音楽を」と続けてきた演奏は13年で約340回に上る。 福島県三春町出身のチェロ奏者、山田智樹さん(52)は「街や人の表情を見ていると、これで終わりというタイミングはありませんでした」と振り返る。楽員たちは被災地出身であろうとなかろうと、地元の人たちと語り合った。「また来てねと言われたら、また来ようと自然に思う。それは他の楽員たちも同じだったはず」 東日本大震災後、周囲から「売名行為」と言われても、そこに行って演奏すれば笑顔になってくれる人がいた。「演奏を喜んでもらうのが音楽家の本分。被災地だろうがサントリーホールだろうが、それは変わらないと思います」 活動は次第に届けるだけでなく、吹奏楽部の子どもたちの指導や地元オケとの合同演奏など協演も積み重ねるようになった。被災地のニーズは「受け取る」から「発信する」に変化していったからだ。若者たちが受け継ぐ地域の伝統芸能とオケとのコラボレーションも実現した。 地元の若者とともに文化芸術を発信していく活動を始め、19年に「東北の夢プロジェクト」と名付けた。
23年5月には岩手県と連携協定を結んだ。音楽を通じて、子どもたちが幸せに育つコミュニティーづくりを目指す。宮城県や福島県でも街を盛り上げるイベントで、日本フィルに声がかかる。 13年間、音楽を届け続けられたのはなぜか。平井理事長はこれまでに出会った人々の笑顔を思い出しながら言った。「日本フィルが届けてきた音楽は、ぜいたくな非日常ではなく、人と人との交流。だから長くつながってこられたのだと思います」【毎日新聞・山田奈緒】
※この記事は毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。